搾取が広がる家事労働─アイルランド─

急増する家事労働者の需要
アイルランドの出生率はEUの平均より高く、移民の増加と相まって、2046年までに人口は530万から560万にまで増加すると予測されている。同時に経済も回復しており、多くの親、特に母親が再び就労を始めている。それによって育児や家事支援の分野における労働力の需要が生まれている。にも関わらず、公立の保育所で働く労働人口は2008年以降年間2.3%の割合で縮小しており、中央統計局(CSO)によれば家事労働者数は2008年の1万400人から2014年には6500人まで減少している。また公的な統計によれば、2014年に家事労働者として雇用されている非アイルランド人はわずか286人とされる。出生率が上がり、多くの人が家庭外での就労に回帰している中、一体誰が家事労働、特に育児を担っているのだろうか?

非正規化する家事労働者と“オペア”(1)
アイルランドには非EU圏からの労働者に対する就労許可制度があり、2009年まで育児サービスの需要の多くはこの制度によって賄われてきた。しかし2009年に、政府は育児労働での就労許可の発行を原則として停止した。家事労働者への新規就労許可は2014年までに急速に減少し、当然の成り行きとしてオペアや非正規移民が担い手の不安定な家事労働市場を生み出した。オペアに代表される学生移民は非EEA(欧州経済地域外)からの移民の内、最も大きな割合(52%)を占め、2014年には非EEA圏からの学生は4万9500人にのぼった。また近年の調査によって、アイルランドの家事労働分野に外国からの非正規労働者が多数就労していることが明らかになっている。家事労働者の就労許可は出ないにも関わらず、この分野で働く移民女性への需要は大きい。オペアと非正規移民は非常に弱い立場にあり、自分の権利を主張しづらく、個人の家庭で搾取的な状況に陥りやすい。つまり、労働移民に関する政策が国内需要を反映していないために、規制の及ばない搾取的な仕組みを生んでいるのだ。
この5年間で、アイルランドでオペアとして働く非EU圏出身の女性は急激に増加している。近年の調査では、フルタイムのオペアを最低賃金以下で雇用する搾取的慣行が、国中に広がっていることが明らかになった。彼女らは、雇用契約や有給休暇、時間外手当などの基本的な労働権を認められていない。アイルランドの雇用に関する法律は、雇用契約が存在するすべての労働者に適用されるが、オペアに対する低賃金は問題視されていない。
例えばブラジル出身でオペアとして働いたある女性は、週120ユーロ(およそ1万5000円)の賃金で平均週70時間働いた。3人の子の世話と家事を担い、日曜祝日も働いたが、時間外手当は一度も支給されなかった。
近年の調査で、オペアの育児サービスを使っている世帯は2万にものぼることが明らかになった。しかし、オペア雇用は仲介業者を介して非公式に行われ、公式なデータがないことから、実際はこの数を超えている可能性がある。アイルランドは欧州議会の人身取引対策に関する専門家会議(GRETA)から、「オペア、また家事労働者として働く移民労働者の規制を見直し、オペアを含む家事労働者への虐待を防止し、人身取引のケースを発見するために個人の家庭における検査を可能にする」よう勧告されている。

(1) 外国人がホームステイ先で家事労働をしながら語学を学ぶプログラム
出典:Migrant Rights Centre Ireland 作成 Childcare in the Domestic Work Sectorより
翻訳:阿部藹