今ここにある「移民社会」から、 新たな「外国人材」受入れを問う

安藤真起子
移住者と連帯する全国ネットワーク

はじめに
2019年4月より、新たな外国人労働者の受け入れが始まる。人手不足が深刻な14業種を対象に、5年間で34万5千人の「外国人材」を受け入れることが先の臨時国会で決まった。
政府は、今回の入管法改定にあたり、(建前上は)これまで頑なに固持してきた「単純労働者は受け入れない」とする方針を改めた。一方で「移民政策ではない」と繰り返し強調する姿勢から、「労働力はほしいが、移民はいらない」とする現政権の排外主義のスタンスも露わになった。
本稿では、これまで日本がとってきた「外国人労働者政策」の変遷をふりかえることにより、この度の「外国人材」受け入れの問題を検証する。

日本の「外国人労働者政策」
◆バブル経済下の「オーバーステイ容認政策」
ニューカマーと呼ばれる移住労働者たちの権利のための取り組みが本格的に始まったのは、1980年代である。日本社会はバブル景気を背景に労働力需要が高まり、アジア近隣諸国から多くの外国人労働者が来日した。出稼ぎの目的で来日する外国人の多くは観光ビザで入国し、オーバーステイとなって在留したが、当時はまだ警察や入管からの摘発はそれほど多くはなかった。1992年にはオーバーステイの数はほぼ30万に達している(2018年1月時点のオーバーステイの数は6万6千人)。この事実について、移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)代表理事の鳥井一平は、当時日本政府が「オーバーステイ容認政策」をとっていたとしか説明のしようがないと指摘する。
こうしてオーバーステイの労働者たちは、いわゆる3K(きつい、汚い、危険な)労働に従事し、バブル期にあった日本社会の経済産業活動を支えた。

◆呼び寄せられ、帰国させられた日系人
入管法はこれまでも何度か改定されているが、1989年の改定では、現在まで続いてきた原則として「単純労働者」は受け入れないとする管理体制が確立された一方で(1)、日系人、研修生、技能実習生など、合法的な単純労働者の受け入れは進める(2)というダブルスタンダード体制が整備された。
日系人呼び寄せにあたっては、就労が制限されない在留資格「定住者」が創設された。これもまた、今回提出された法案のように、当時の政権が人手不足を背景に経済界からの要請に応えて急遽しつらえたものであった。ブラジル、ペルー等の南米から多くの日系人が来日した。ところが、就労制限なしで働ける「日本人」として重宝されるはずであった日系人らは、2008年のリーマンショックを機に失業に陥る者が続出する。これを受けて日本政府は、失業状態にある日系人を対象に帰国支援事業を実施、約2万人が帰国に至った。事業実施に際し、政府はこの日系人呼び寄せを「失敗」であったと公表している(3)。本来、その「失敗」から学ぶべき教訓は他にあったはずであるが、本質的な問題の検証は据え置いたまま、政府は「経済的に貢献できない外国人には帰ってもらう」方針のみを打ち出し、実行したのである。

◆「労働者」ではない「労働者」―技能実習生、留学生
人権侵害を生む制度として指摘されている外国人技能実習制度は、1993年に創設された。当時は「研修」と「技能実習」が同じ制度のもとで運用されていたが、2010年に「研修」が分離され、「技能実習」に特化した制度となる。
政府はこれまで、技能実習制度は開発途上国への技能移転による国際貢献を目的としているとする建前を固持してきたが、この度、単純労働に従事できる新たな在留資格「特定技能」の創設にあたり、その約半数は「技能実習」から移行すると発表した。技能実習制度が単純労働力を補充するための制度だということがあらためて公にされたのである。
技能実習生と同様、使い勝手のよい労働力として用いられているのが「留学生」である。在留資格「留学生」は、資格外活動として週28時間の就労が認められる。「留学生」人口約32万人(2018年6月時点)のうち、約8割の留学生が働いている。
2017年10月時点の外国人労働者人口は128万人であるが、就労している技能実習生と留学生で4割以上を占めている。つまり、外国人労働者の半数近くが「労働者」ではない「労働者」なのである。
「オーバーステイ容認政策」では3K労働に従事させ、いらなくなると「不法滞在者」として取り締まり、呼び寄せた日系人も失業されてはコストがかかると帰国を促し、次に、使い勝手のいい安価な労働力である技能実習生、留学生に目をつけ、使い続けてきた。それがこの国の外国人労働者政策の実態であり、この社会を持続させるために容認されてきた構造である。

今ここにある「移民社会」から
この度の入管法改定にあたって、政府は正面からの外国人労働者の受け入れを認めた。しかし、それは労働力ほしさの「開き直り」でこそあれ、これまで30年以上オーバーステイ、日系人、技能実習生や留学生をいつでも使い捨てができる安価な労働力として用いてきた外国人労働者政策の延長にすぎず、本来この社会が必要とする「移民政策」への転換にはなりえなかった。技能実習制度の拡大という一点をとって見ても、「人間」の受け入れという発想からは程遠い。
「外国人材」とは、言うまでもなく人間である。これまで外国人労働者たちが提起してきた問題も、「労働」の領域には限らなかった。結婚であり、離婚、恋愛、妊娠・出産、病気、介護、交通事故、死別、DV、差別、進学・就職、借金であった。あるいは、子どもが持ち帰る学校のお知らせが読めないということや、帰国したくとも帰国できない、毎日さみしくてたまらないということであった。そうした外国人労働者の訴えは、この社会の問題を顕在化させた。また、外国人労働者は家族の一員、この社会の構成員、あるいは地域の担い手としても重要な役割を果たしてきた。しかし、残念ながら政府はそうした現実に目を向けようとはしない。
日本政府が執拗なまでに「移民政策ではない」と固持するのは、これから受け入れる「外国人材」が「いつか帰ってもらう」人びとであることを印象づけ
たいからであり、また、すでにこの社会にいる移民の存在を認めたくないからに他ならない。しかしながら、「移民問題」が「政治的な選択」でどうにかなる話ではないことは、これまでの移民政策研究からも、世界の情勢からも、そしてこれまで私たちが出会ってきた外国人労働者たちの人生からも明らかである。また、移民問題に向き合う際に、この社会が「日本人」による「日本人」のためのものであるという幻想から脱却しないことには、いつまでたっても社会的分断の「恐怖」から逃れることはできないだろう。
現実を直視せず、「人間」に向き合おうとしない
「政治」をいかにして動かすことができるか。今すでにある移民社会の一員としての私たちの力が試されている。

(1) 駒井洋(2018)「多文化共生政策の展開と課題」『移民政策のフロンティア』明石書店
(2) 明石純一(2010)『入国管理政策』ナカニシヤ出版 
(3) 「日系人受け入れは失敗」=河野法務副大臣が発言=3世受け入れ厳格化へ=在留資格に日本語能力

(参考文献)
稲葉奈々子・髙谷幸・樋口直人 2017「排外主義に陥らない現実主義の方へ――上野千鶴子さんの回答について」 

IMADR
メルマガ登録
 
英文ニュース登録 Amazon
Follow us
  • facebook
  • twitter