権利を擁護する先住民族に対する攻撃と犯罪化

ビクトリア・タウリ・コープス
先住民族の権利に関する国連特別報告者

 

今年9月の国連人権理事会39会期において、先住民族の権利に関するビクトリア・タウリ・コープス特別報告者は、「権利を擁護する先住民族に対する攻撃と犯罪化」についての報告書を発表した。ここにスピーチの要約を紹介する。

 

深刻化する権利を擁護する先住民族に対する

「犯罪化」

自分たちの土地や領域、および資源を守る権利のために立ち上がっている先住民族に対する攻撃、脅迫そして活動を犯罪とすること(以下、「犯罪化」)が深刻さを増しているため、このテーマを取り上げることにした。

犯罪化はほとんどの場合、採掘産業、農業関連産業、インフラ、水力発電ダムなどに関連した大規模なプロジェクトに対し先住民族のリーダーたちやメンバーが反対の声を上げた時に起きている。大規模な開発プロジェクトは先住民族の生活に不可欠な自然環境に対して取り返しのつかない損害をもたらしており、保全事業や気候変動への対応・軽減措置も、人権保護の仕組みなしでは先住民族の権利を侵害する恐れがある。非合法または保全と気候変動に関する事業と相容れないとされた伝統的な先住民族の生活様式は禁止され、人びとの逮捕、拘束、強制退去に繋がっている。最悪の場合、先住民族は天然資源の需要によって拡大した軍事化によって国家安全保障法やテロリズム対策法の標的にされ、軍隊、警察および民間軍事関係者の銃口の前に文字通り立たされる。

先住民族コミュニティの健やかな暮らしと権利、また環境保護について顧みない海外投資家が、主に経済的利益を受ける投資協定から資金提供を受けて進めるプロジェクトが急増している。多くの先住民族が社会運動や法的措置を通して先祖伝来の土地におけるプロジェクトに対して立ち上がっているが、その報復として先住民族は開発に対する障害であり国益を損なう活動をしていると非難され、迫害の標的となっている。先住民族との協議、もしくは自由で事前の情報に基づく合意がないままプロジェクトが実施されることが共通している。協議がなされた場合でも、それが不適切、不誠実だったり、単に判を押すことが目的で計画と実施における参加と再検討が不可能であったりすることが多い。先住民族の集団としての土地への権利と土地保有権が認められないことで、大規模プロジェクトから土地を守ろうとする先住民族は弱体化され、攻撃に晒されている。先祖伝来の土地への権利が否定されることで、先住民族は自らの土地において侵入者または不法占拠者とされ、強制退去や刑事罰の対象となっている。

 

「犯罪化」の一端を担う法

世界中で先住民族の擁護者に対する攻撃はメディアにも取り上げられずに見過ごされている。特にブラジル、コロンビア、エクアドル、グアテマラ、ホンジュラス、インド、ケニア、メキシコ、ペルー、そしてフィリピンをはじめとして、先住民族に対する攻撃、暴力行為、脅迫および犯罪化の数は世界中で増加している。声を上げようとする先住民族のリーダーやコミュニティは標的となり、殺害、強制退去、脅迫、そして誇張や虚偽に基づいた刑事告訴を使った陰湿な嫌がらせを受けている。暴力的か法的かにかかわらず、これらの攻撃の目的は事業の利益に反対する先住民族の声を沈黙させ、権利の行使を妨害することである。殺害された人権擁護者の数についての国際的な推定が存在する一方、先住民族に対する司法による嫌がらせや刑事告訴に関する情報は不十分である。大規模プロジェクトに抗議し、情報へのアクセスと協議への参加および自由で事前の、十分な情報に基づいた合意を与える権利を要求した先住民族の多くが刑事告訴されている。先住民族のリーダーに対する人種差別的な名誉棄損と中傷キャンペーンのほとんどが、私益に駆り立てられたものであることも共通している。検察官と裁判官は裏付けのない告訴を受理し、証拠もないまま令状をだし、先住民族の擁護者を犯罪者とする不適切な法の解釈と、正当な理由のない訴追を可能にすることで刑法の乱用に貢献している。議員はテロリズムといった重大な犯罪の定義が曖昧な法律や、表現や集会の自由などの権利の行使を過度に罰する法律を制定することで犯罪化の一端を担っている。公の秩序の妨げ、犯罪の扇動といった広範で曖昧な定義の刑事告訴が頻発している。

弁護士や通訳へのアクセスはしばしば限られており、家族やコミュニティから遠く離れ、時には何年間も長期にわたって公判前に拘留されることもあるため、先住民族は刑事手続きにおいて不利な立場に立たされている。先住民族のリーダーに対する攻撃、殺害、訴追と拘留は先住民族の精神的・身体的健康を蝕み、生計の維持を脅かし、彼らのコミュニティの権利を守る力をそいでいる。また、これは他のコミュニティも標的になるかもしれないという恐怖心によって沈黙させることも意図している。

先住民族の女性は犯罪化の性差別的な影響に苦しんでいる。彼女たちは問題について公の場で声を上げることで、先住民族の伝統を破っている不名誉な女性たちであるという中傷キャンペーンの標的になりやすい。そのような中傷は家族とコミュニティから孤立させることを目的としている。また男性が拘留されると女性は家計を担う責任を一手に引き受けなければならず、深刻な影響を受けることになる。最近のグアテマラへの公式訪問では、夫が拘留されたことで女性や家族が非常に困難な状況に陥ることを、先住民族の多くの女性たちから聞いた。

 

国内法の再検討の必要性

報告書の勧告の中でも、特に先住民族を攻撃した加害者の訴追と処罰を行うことの重要性を強調する。先住民族に対する暴力行為の不処罰が世界で蔓延していることにより、先住民族はよりぜい弱な状況に置かれている。当局のトップレベルが先住民族の権利、特に集団としての土地への権利と自分たちの土地、領域および資源の利用と開発に関する優先順位の決定・参加・協議・同意をする権利を正式に認めることが不可欠である。犯罪化を根絶するためには国内法の包括的な再検討に加え、罪刑法定主義と国際的責任に反する法律と刑事手続きの撤回が必要である。輪作や狩猟採集といった先住民族の生計や、表現と集会の自由を実質的に犯罪とする法規定は廃止されるべきである。

民間企業はその活動において人権デュー・ディリジェンス注1)を実行し、明確な方針を採用し、すべてのプロジェクトにおいて人権に関する影響評価を行うと共に、影響を受ける先住民族コミュニティをそこに十分に参加させなければならない。国際援助機関や金融機関は支援するすべてのプロジェクトにおいて、人権に関する影響評価や、先住民族コミュニティの実質的な参加、先住民族に特化した保護措置、効果的な救済手続き等を求めるなど、人権責任に準じた措置を講じる必要がある。

私も犯罪化の被害者であることから、この一年間にいただいたすべての応援と連帯の声に感謝を表明してこの発表を締めくくりたい。

翻訳:小松泰介

 

注1)人権デュー・ディリジェンスとは、「企業の役職員がその立場に相当な注意を払うための意思決定や管理の仕組みやプログラム」であり,経営責任の有無の判断基準を提供することにあるとする「人権リスクに関する内部統制」である。(日本弁護士会連合会)