アイヌ民族は先住民族

阿部ユポ

札幌アイヌ協会

 

イランカラプテ!ハワイではアロハ、沖縄ではメンソーレです。日本政府はこの言葉をキャッチフレーズにしてアイヌのことを知ってもらおうとしています。この言葉、とても優しくていい言葉です。初めて会った人、とても久しぶりに会った人への挨拶で、『あなたの心にそっと触れさせていただきます』という意味です。日本政府はアイヌ民族のことを一生懸命やろうとしているのですが、私たちが求めていることとは違います。

 

北米の先住民族の取り組みに驚く

1993年、カナダのブリティッシュコロンビア州バンクーバーでの国際会議に知り合いから誘われて参加しました。会議では先住民族に関していろいろと議論されていました。会議のあと、現地の方に案内されて、市を流れる川の上流に行きました。そこには大きな養殖場があり、サケやマスを養殖して市場に出しています。何台もの大型トレーラーが出入していて活気にあふれていました。「これは誰がやっているのですか?」と聞いたら「カナダの先住民が経営している」と知らされ、たいへん驚きました。カナダは北米大陸の半分を占めますが、さらにそのカナダの国土の北半分のほとんどでは、先住民族イヌイットが土地を返せと要求して、自治政府ができているということでした。私はまったく知りませんでした。いろいろと話を聞いてみると、アメリカ合衆国のなかにもたくさん先住民族の自治政府があって、アメリカの中央に4つの州にまたがって先住民族の大きな自治州があるということでした。びっくりしました。それ以上に驚いたことに、カナダの先住民に、「あなたたちは世界の先住民族のなかで一番ひどいことをされている。それが分からないのか?」と言われました。「知りません」と私は答えました。「あなたは1週間、カナダに遊びに来たのか」と怒られました。私は、「このように日本語もしゃべれるし、小・中・高校と行ったし、就職もできた」と答えたら、「あなたは何も分かっていない。1987年からあなたたちの先輩は国連に来て、日本政府に何をされたか訴えている。それを英語の冊子にして国連に来た世界の人に配った。日本の国がアイヌ民族に何をしたかということは、世界の先住民族が知っている」、「日本の四分の一もある樺太、千島、北海道。四分の一あるこの国を、今から150年前の明治維新に一方的に取り上げられたのだぞ」。びっくりしました、私たちは何も知りませんでした。

 

アイヌ民族を教えない日本の教育

「アイヌ語も禁止されたのだろう?だからあなたたちはアイヌ語を話せないのではないのか?」、「木を切って家を建てて、暖をとるために燃やすことすらできなくなったと言っていたのではないのか?」「生業を禁止され、日本の農耕民族になれと言われたのではないのか。アイヌ語も宗教も文化もすべて禁止されたと言っていたではないのか?」これには驚きました。戦前まで、日本の学校ではこうした歴史を教えていたのです。沖縄に琉球民族がいる、北海道にはアイヌ民族がいると教えていたのです。しかし日本は大戦で大変な目にあい、戦後は「困っているのはアイヌ民族だけではない」と言って、学校ではいっさい教えなくなりました。そのため、皆さんは知らないのです。議員になっても、国家公務員になっても、あるいは学校の先生になっても、「えぇ、アイヌって何?」「昔いた人でしょう」こう答えます。

アイヌ民族は昔いた人ではありません。国連は先住民族の問題をずっと議論してきました。先住民族は昔からその土地に住んでいた人びとです。アイヌ民族は3万年前からそこに住んでいました。自分たちの言葉を話し、生業を立てていたのに、突然多数派の人たちが来ました。明治になって沖縄、九州、四国、本州から多くの人びとが世界に移住しましたが、行先で奴隷のように扱われました。そのため今度は北海道に行けということになりました。そして北海道に560万人が移住しました。皆さんの先祖です。明治政府が来て、アイヌに対して「日本人になれ」と言い、強制的に創氏改名をして日本国民にしてしまいました。それを植民地化というそうです。それを植民地政策というそうです。「その後、日本は何をやったのですか?朝鮮へ行って、中国へ行って、東南アジアへ行って、一体何をしたのですか?」カナダの先住民族にそう言われました。

 

先住民族としての権利保障を求める

カナダから帰って、私は家族に、「酒もやめるから、ゴルフもやめるから、国連に行かせてくれ」と頼みました。そして国連へ行って、市民外交センターの皆さんに教えてもらいながら10年間勉強をしました。そういうことを日本の皆さんに分かっていただきたいです。「先住民族って何ですか?」「それは、元々もっていたものをすべて奪われ、強制的に日本国民にさせられた人たちです」。そのことを司法は1997年の二風谷ダム裁判で受け入れました。2008年6月、先住民族権利宣言が国連で採択され、翌年の2009年には日本の立法、司法、行政の三権すべてがそれを認めました。世界の30カ国では憲法で先住民族の権利を保障しています。日本でもそれが実現することを目指しています。

<これは2018年3月20日に人種差別撤廃NGOネットワークが開催した人種差別撤廃デー集会での発言をまとめたものです>