マデレーン・コウバー
国際ダリット連帯ネットワーク(IDSN)
6月21日、IMADR、全国ダリット人権キャンペーン(NCDHR)そして国際ダリット連帯ネットワーク(IDSN)は共同で、「カーストに基づく暴力と闘うダリット女性」と題したサイドイベントを国連人権理事会で開催した。司会はヒューマンライツ・ウォッチのジョン・フィッシャーさん、パネリストとしてダリット女性であり人権活動家であるアーシャ・コウタルさん、インドの人権弁護士ヴリンダ・グローバーさん、国連人種差別撤廃委員のリタ・イザック・ンディアイェさん、そして女性に対する暴力に関する国連特別報告者のドゥブラフカ・シモノビッチさんを迎えた。それぞれの発言要旨を報告する。
アーシャ・コウタル
インドで日々この問題に取り組んでいるコウタルさんは、彼女の組織である全インドダリット女性が調査をした事件のなかから、ダリット女性が犠牲になった3件の事件について報告した。いずれもカーストに基づく暴力であり、性暴力とレイプを伴なう陰惨な事件であった。集団レイプの餌食にされ最後は殺された女性、レイプ被害者として警察に届けを出したものの、その後、周囲の視線や圧力に耐えきれずに自ら命を絶った女性。最も恐ろしいのは、これら事件において正義を追求する手段が完全に欠落していることだ。「これまでずっと、ダリット女性たちはさまざまな機関や手段を駆使して事件究明に関わり、あらゆる機会を捉えて犯罪の悪質性を発信してきた。それなのに、なぜ私たちはここに至っても、同じことを繰り返し訴えなくてはならないのだろう?世界は世界人権宣言70周年を祝っている。国連はカーストに基づく犯罪をこの時代のもっとも重大な人権侵害の一つとして認める用意はあるのだろうか?私たちすべてが自由にならない限り、誰も自由にはなれない」そう締め括った。
ヴリンダ・グローバー
インド最高裁の上級弁護士であるヴリンダ・グローバーさんは、インドの刑事司法制度そのものを厳しく批判した。ダリット女性たちは自分たちの権利を十分認識しており、裁判を受ける権利を実施しようと試みてきた。だが、司法はそれに背を向けてきた。警察官は職務を十分認識しているし、法律は明らかに指定カーストと指定部族を保護している。しかし、法律は繰り返し破られてきた。グローバーさんは制度的な免責(不処罰)を非難し、法に訴えるダリット女性はみな、この不条理に直面していると指摘した。法に従い、あらゆる申立ては速やかに記録されなくてはならず、それを怠った場合は指定カースト・指定部族虐待禁止法のもと犯罪となる。グローバーさんはこう述べた、「逮捕請求を出し渋ることは単なる不作為として済まされるものではありません。そのような行為は被害女性から事件追及の機会を完全に奪ってしまうことになります」。組織的偏見は司法制度の隅々に行き渡っている。この問題に取り組むには、この制度的暴力を認識しなくてはならない。
コウテルさんの話に関連して、グローバーさんはダリットが受けている経済的はく奪について言及した。それにより若いダリット女性やその家族は例外なく制度的暴力に無防備にさらされている。「家族はしばしば食べていくことと正義を求めることの板挟みになります。家族全員の生存を覚悟して法に訴えなくてはならないのです」。正義を求めることはたいてい徒労に終わる。制度により支えられている免責のからくりは法に訴えようとする被害者の試みを挫く。法的追及の代償は途方もなく大きく、被害者は支払うことはできない。
ドゥブラフカ・シモノビッチ
女性に対する暴力の国連特別報告者シモノヴィッチさんは2014年にインドを公式訪問し、ダリット女性が裁判へのアクセスをもっていない問題を報告書で明らかにした。シモノヴィッチさんは国連人権システムがこの問題に対する取り組みを発展させ、政府の責任を問うていくことが重要だと述べた。同時に、この問題に対して一刻も早くアクションを取る必要があると強調した。
リタ・イザック・ンディアイェ
最後のパネリストは元マイノリティ問題に関する国連特別報告者であり、現在、人種差別撤廃委員のリタ・イザック・ンディアイェさんである。リタ・イザックさんは、これら問題の根本的な原因のひとつとして、草の根レベルと国連レベルではこの問題が活発に議論されているが、国レベルにおいては同じような動きがみられないことを挙げた。インド政府は、すべての国民は一つのアイデンティティを共有しているというメッセージを伝える努力をすべきであると述べた。「どこの誰であろうとも、あなたは重要な一人ですと伝えること。公式発言を聞いて、あるいはメディアや教育を通して、誰もが平等であると人びとが信じるようになることが重要です。問題は人びとのなかに植えつけられた姿勢や考え方にあります。では、どのようにして人びとが信じて疑っていないことに異議を唱えることができるのか、人間に優劣があるという教えに疑問を抱くようになるにはどうすればよいのか?」、そう述べたうえで、リタ・イザックさんは誰もが社会の構成員であると認めること、子どもたちに、誰もが尊重されなくてはならないという考えを教えることが重要だと述べた。
リタ・イザックさんはまた、刑事事件の統計数字とその増減が明確になるような細かいデータの公表が重要だと強調した。インドには不可触制や指定カースト・指定部族の虐待を犯罪として扱う法律がある。そのため、次になすべきことは法の実施である。インドにはこれら法律を効果的に実施するためのメカニズムが欠けている。多数のダリット女性が危険を冒して警察に被害を届けているのに、事件はもみ消される。第一通報の不作為を補うシステムが必要だ。リタ・イザックさんは解決策の一つとして、ダリットをコミュニティの仲裁役として警察が雇うことを提案した。小さな策だが、予算はかからないし、ダリットの参加を保障できる。割当制などを使って、あらゆる意思決定のレベルでのダリットの参加を保障し、制度的な機構を強化すべきである。
また、世界の市民社会への呼びかけとして、自国の審査だけではなく、常に他の国の国連人権メカニズムに関わるよう促した。そうすることで、ダリット女性と構造的暴力の問題は、インド一国だけのものだという認識が変わっていく。