ニマルカ・フェルナンド
反差別国際運動共同代表理事
地域の概括
南アジアは、アフガニスタン、バングラデシュ、パキスタン、インド、ネパール、ブータン、モルディブの8カ国から成ります。これらの国を人口で見れば、インドは 13億、スリランカは 2100万、バングラデシュは1億6400万、ネパールは 2900万、ブータンは 79万、パキスタンは2億、アフガニスタンは 2900万と大きな違いがあります。これら8カ国はどこも平和、紛争そして経済に関して問題を抱えています。そして、この地域の戦争や紛争のほとんどはマイノリティの権利の問題に関連して起きています。
こうした情況のなか、IMADRは女性、特にマイノリティ女性に焦点を当てて活動をしてきました。南アジアにおける貧困の話をすれば、まず女性の顔が見えてきます。労働や経済の話をすれば、女性の顔が見えてきます。また、紛争と平和の問題、あるいはそれによる国内避難民や難民の話をすれば、女性と子どもの顔が見えてきます。十数年前にインド洋大津波に見舞われたときも、女性と子どもの顔が一番に見えてきたことを覚えておられると思います。
この地域の人口の半分以上は女性が占めています。ジェンダーに基づく暴力や、政治的・経済的・社会的権利に関する差別は私たちが直面している現代的課題です。IMADRは人権とジェンダー平等に関する問題を取りあげてきました。スリランカの女性の識字率はかなり高いですが、南アジアのその他の国の女性の識字率は平均よりかなり低いレベルに留まっています。
IMADRアジア委員会の活動
アジア委員会は、インド、スリランカ、ネパールのパートナーであるマイノリティ女性組織と一緒に活動をしてきました。バングラデシュ、パキスタンでは、地域にあるネットワークを活かして、マイノリティの課題、とりわけダリット女性の課題に取り組んでいる組織と一緒に活動をしてきました。私たちが特に重点的に取り組んできたのは、マイノリティ女性が直面する複合差別の問題です。複合差別は、カースト制のもとでの不可触性などの差別、階級による差別、そして女性であるというジェンダーに基づく差別などが重なりあって生じます。他にも、民族的・宗教的マイノリティであるために直面する差別や人権侵害もありますし、最近では、LGBTなどの性的指向や性自認に基づく差別も大きな課題です。女性は、労働面でも人権侵害や搾取の対象とされてきました。女性は非常に便利で安価な労働力として使われてきたのです。
南アジアのこれら国は女性差別撤廃条約を批准していますが、条約の国内実施に関しては文化的側面が大きな影響を及ぼしています。たとえば、バングラデシュやパキスタンはイスラム教徒の人口比が高く、条約の普遍的な適応が妨げられています。国際的にはジェンダーの平等は当然のこととして認められていますが、これら国々における社会やコミュニティの動きを見てみると、依然として男性優位の状態が続いています。複合差別をキーワードに、IMADRはマイノリティ女性など抑圧されてきた女性のエンパワメントに力を注いできました。
ネパールにおいてはFEDO(フェミニストダリット協会)が中心になってこの問題に取り組んでいます。現在、FEDOとIMADRが共同で行っている事業のテーマは女性に対する暴力です。これはリプロダクティブ・ヘルスにも関連します。FEDOは全国組織であり、3000以上のダリット女性グループが村ベース、コミュニティベースで結成されていて、メンバーのエンパワメントを行っています。地方のリーダーを育てるために、FEDO中央本部で研修が行われ、受講した女性たちは地元に戻り、他のメンバーのために研修を行なったり、行政への働きかけを行なったり、あるいは地方選挙に立候補して議員として活動しています。私は 2015年のネパール憲法の起草に南アジアの市民社会組織代表の一員として関わりました。新憲法のもと、今、ネパール議会の議席数の 33%は女性議員が占めることになっています。私がIMADRに関わるようになった 25年前は、3分の1が女性議員になるような日がくるとは想像さえできませんでした。憲法起草プロセスでの市民参加や女性の地方政治への参加などの事実の積み重ねは、ネパールの政治家への圧力となり、その結果こうしたことが達成できました。これらをIMADRのおかげだというつもりはありませんが、IMADRは女性の権利認識の促進に関わってきました。
スリランカではIMADRは紛争解決や平和構築に深く関わってきました。インド洋大津波の被害を受けた東部のコミュニティや、イスラムコミュニティへの生計支援を行ってきました。さらには、スリランカの内戦により大量の国内避難民が生みだされたときは、避難民が多くいた二つの村を支援しました。
スリランカで、最も貧困に苦しんでいるのは紅茶農園で働く人びとです。インドとスリランカが英国の植民領であったときに、紅茶農園で働くためにインドのタミール・ナドゥ州から連れてこられた人びとの子孫です。今、紅茶農園で働いている人の多くは女性です。IMADRは彼女たちのエンパワメントと 就学前教育、あるいは男女同一労働・同一賃金、経済的権利の啓発に力を入れてきました。また、インドから連れてこられたこの人たちの祖先は住民登録など公民権に関わる登録は何もできませんでした。そのため法律に保護されることもないまま、農園労働者として数世代そこで暮らしてきました。これら農園労働者の市民権を認める法律制定の活動にもIMADRは取り組み、100万人の署名を集めました。また、国連にも働きかけ、人種差別撤廃委員会の勧告を受けたりしながら、法律ができました。2000年のこの法律制定により、ようやく彼・彼女たちにも市民権が認められるようになりました。
インドでは、IMADRは農村開発教育協会(SRED)とパートナーシップを組んで、ダリット女性の支援活動を続けてきました。なかでも、資産や土地の所有を一切認められていないダリット女性たちが政府の遊休地を取得し、女性たちの手で荒れた土地を開墾し、有機農法を学んで集団農場を始めたことは非常に画期的でした。IMADRの活動によって、国連特別報告者が常にダリットに対する差別を報告の中に含めるようになりました。
私たちは草の根レベルの活動に重点を置いてきました。リーダーシップトレーニングを行い、それが発揮できるポジションを提供したり、村レベルで人びとが自発的に集まり組織をつくれるような活動をしてきました。その結果、人びとは私たちにも水を使う権利がある、教育の権利があると主張するようになりました。国レベルでは、政治家に自分たちの声を届ける活動を行ってきました。また、女性たちの代表をジュネーブに送り、国連でロビー活動を行なってきました。これらの活動の多くは、政治的な変化や法律の改正、条約の実施、さらには未批准の条約の批准などに繋がっています。草の根レベルの活動に取り組む女性たちのエンパワメントはこのように行われてきました。このようにして、人びとは地球の未来を担っています。
*IMADR30年記念シンポジウム(6月6日)の講演より
*この記事は通訳(岡田仁子さん)のテープ起こしを基に編集したものです。