朴金優綺
在日本朝鮮人人権協会事務局
2017年11月、私は日本の市民社会からは初のパネリストとして、国連人権理事会が主催する「第10回マイノリティフォーラム(Forum on Minority Issues)」(以下、フォーラム)に招待され、日本政府による朝鮮学校差別及び在日朝鮮人の若者らによる抵抗運動について報告をしてきた。本稿では、フォーラムの概要、報告の内容と反響、フォーラム参加の意義などについて述べたいと思う。
国連マイノリティフォーラムとは
国連マイノリティフォーラムとは、国連人権理事会によって年に一度、マイノリティ問題に関する国連特別報告者主導のもと、スイス・ジュネーブの国連欧州本部で二日間にわたって開催されているフォーラムである。世界中から民族的・宗教的・言語的マイノリティを中心とするマイノリティの人々が集い、それぞれが直面している課題及び課題克服のための実践、当該政府への勧告案を報告・共有する場となっている。マイノリティやNGOだけではなく、各国政府、関連国際機関、国連の専門家(条約機関の委員など)、大学・研究機関なども参加し、参加者間の対話と協力、ネットワーク作りが目指されている。
2017年は、マイノリティの権利と国家の義務を規定した「民族的、宗教的及び言語的マイノリティに属する者の権利に関する宣言」の採択から25周年を迎え、フォーラム開催10周年を迎える節目の年でもあり、世界中から400を超える参加者が集った。フォーラムの開会にあたってフェルナンド・ド・バルネス国連マイノリティ問題特別報告者は、世界が様々な危機に直面するなかでの、多様で包括的な社会構築に向けてのマイノリティの若者の役割の重要性を強調していた。
日本政府による朝鮮学校差別と
在日朝鮮人の若者らの抵抗運動を報告
今年のフォーラムには4つのパネル(①マイノリティの若者をエンパワーするためのインクルーシブな教育、②マイノリティの若者の公共生活への参加、③デジタル時代のマイノリティの若者とメディア、④平和と安定のための変化の主体としてのマイノリティの若者)が設けられ、一つのパネルあたり3名のパネリストが選出された。各パネルには約3時間が費やされ、できるだけ多くの参加者に発言の機会を平等に与えるため、パネリストには各5分、その他参加者には各2分の発言時間が与えられた。
私は第1パネル「マイノリティの若者をエンパワーするためのインクルーシブな教育」のパネリストとして、チュニジアのアマズィグコミュニティの活動家とリトアニアのポーランド語教育研究者と共に登壇し、①在日朝鮮人の若者らが直面する課題としての日本政府による朝鮮学校差別、及び②在日朝鮮人の若者らによる抵抗運動について報告した。具体的には、①日本政府の差別によって、在日朝鮮人の自国語を教える教育機関である朝鮮学校の存続が危機に瀕していること、日本政府は朝鮮学校を正規の学校として認めておらず、国庫補助もなく大学受験資格も一律には認められていないこと、近年では「高校無償化」制度の対象から朝鮮高校生だけが政治・外交上の理由で除外され被害を被っていること、少なくない地方自治体が朝鮮学校への補助金を停止していること、②在日朝鮮人の若者らはこうした差別に毅然と立ち向かっており、「高校無償化」制度からの除外に抵抗しての裁判闘争、毎週金曜日に文科省前で行っている「金曜行動」、国連条約機関へのロビーイングなど広範囲に活動を繰り広げ、さらにはアートを通じた日本の大学との交流や公開授業の開催など、朝鮮学校への理解を広げるための様々な努力を行っていることを報告した。そして、日本政府を含めた各国政府は、マイノリティの自国語を教える教育機関の維持のためのすべての適切な措置を取るべきである旨の勧告を提案した。
発言時間の制約のなか、朝鮮学校の歴史や現状をすべて語る時間は到底なかったが、在日朝鮮人の若者の思いとして、2014年の人種差別撤廃委員会のNGOブリーフィングで、“日本で朝鮮人として生まれ育っても自らの言語や文化、アイデンティティを学び、同じルーツを持った仲間と出会える場所としての朝鮮学校の大切さ”を訴えた、当時大学生だった在日朝鮮人4世による発言の一部を紹介できた。また、参加者らに効果的に発言内容が伝わるよう原稿を記憶して報告するのには労力を要したが、努力の甲斐あり、緊張しながらも発言時間内での報告を成し遂げられた。
発表後は多くの参加者が私の報告を支持してくれた。なかでもフランスの北西部ブルターニュ地方から来ていたNGOが、たった2分の発言のなかで私の報告に対する共感を表明してくれた。同NGOメンバーとしてフォーラムに参加していたブルトン語話者の20代前半の若者たちは「私たちも似た課題に直面している。私たちには何ができるのかを教えてほしい」と言ってビデオ取材を申し込んでくれた。国際条約機関や国連人権理事会のUPR(普遍的定期審査)など、主に国連人権保障システムの活用方法について経験に基づいて話すと、とても喜んでくれ、「帰って仲間たちとこの映像を何度も観て勉強します」と言ってくれた。
在日朝鮮人の人権活動家らが1990年代以降、国際人権の枠組みを使って在日朝鮮人の権利擁護運動を行いながら培ってきた知識、経験、教訓が、今や他のマイノリティコミュニティの運動の参照ともなりうる力を蓄えていることを実感した瞬間でもあった。
朝鮮学校維持のための
在日朝鮮人運動が有する国際的な意義
今回フォーラムに参加して、世界中にこんなにも多くのマイノリティがおり、かのじょ・かれらが一様に、政府による差別、そしてヘイト・スピーチをはじめとした社会からの疎外を受けている事実に驚いた。それぞれのマイノリティに固有の課題がありながら、その課題から共通して見えてきたのは、マイノリティの権利を保障する各国の法制度の不十分さや、権利を侵害されてもマイノリティが効果的に救済されていない実態であった。このような場で、他のマイノリティコミュニティが参照しうるものとしての、在日朝鮮人の若者による朝鮮学校差別撤廃のための努力について報告できたことは、非常に意義深かったと感じている。これはすなわち、日本政府による度重なる弾圧にもかかわらず、在日朝鮮人らが70年以上にわたって継続してきた朝鮮学校維持のための運動が、今やマイノリティの権利保障の観点からみても国際的な意義を有していることを意味するといっても過言ではないだろう。
フォーラムに参加し、在日朝鮮人の権利擁護運動にマイノリティの権利という観点から取り組んでいくことの重要性を一層感じた。国連マイノリティ権利宣言(92年採択)でマイノリティの権利保障は各国政府の義務として定められているように、マイノリティについては、実質的に平等な権利を保障するための措置をとることが各国政府に求められている。このような観点に照らせば、日本政府が朝鮮学校を差別してはいけないというのは当然のことで、高校無償化制度からの除外などは言語道断。真に問うべき理論的水準は、無償化除外などの差別反対のレベルを越えて、日本政府は旧植民地出身者である在日朝鮮人の実質的な権利保障のための措置をとらなければならないという、一段階上のレベルだということをあらためて痛感した。今回の貴重な経験と教訓を胸に、今後も在日朝鮮人をはじめとするマイノリティの権利擁護活動に邁進していきたい。