『続 アボジがこえた海』

李興燮著 室田卓雄編 解放出版社発行 定価:1,700円+税 2015年3月
室田卓雄(むろたたくお)

本書は書名に「続」とあるように、28年前の1987年4月に発行された『アボジがこえた海』の続編である。前書は福岡市にある葦書房から出版され、5年後に再版されるという好評の書籍であった。副題は「在日朝鮮人一世の証言」、帯には「朝鮮人強制連行、胸打つ重い証言」と大きく書かれていた。発行されると西日本新聞に大きく報道されたのをはじめ、朝日・毎日・読売の各紙や地元の市広報誌、ミニコミ誌等にも紹介され話題になった。
 今回の続編に関しては、地元の某出版社と契約したが、再校途中で突然条件が出された経緯がある。その内容は一部原稿の削除、出版社名を外す、出版を延期するなどである。理由は「従軍慰安婦」問題で大きく日韓関係が冷え込み、強制連行に関する内容の本を出版することに対して世論の批判が怖いということであった。なんと情けないとの思いと同時に怒りも覚えた。そのため、人権問題を専門に扱っている解放出版社にお願いをした。
 著書の李興燮さんは、残念ながら本書を手にすることなく、昨年10月に86歳で亡くなられた。上記のようなことがなければ、お渡しできたのにと思うと悔やまれる。
本書の内容(目次)はつぎのとおりである。

Ⅰ.玉音放送を待つ
Ⅱ.帰国への期待 
Ⅲ. 証言・強制連行(『東和新聞』1990年週刊連載)
Ⅳ.今、歴史の真実を静かに語る 強制連行した人とされた人
Ⅴ. 裁判所証人(1988.7.5 大阪地方裁判所)
Ⅵ. 朝鮮でのコマ遊び
□李興燮さんとの出会い 川口祥子
□解説 室田卓雄

 1945年8月15日正午、小高い丘の広場に集められた飯場の朝鮮人、玉音放送を聞くところから本書は始まっている。その玉音放送の前後、さまざまな思い、感情が湧き上がってきたこと、帰国のため博多に行きそこで見たこと、考えたこと、生きるための行動が綿々と綴られている。ⅠとⅡで本書の半分を占めている。Ⅲは新聞記者の聞き取りであり前書の要約である。Ⅳ、Ⅴ、Ⅵは証言や体験記としてすでに文章になっていたものを収録した。ⅠとⅡは厳しい生活・仕事を抱えながらの執筆であった。
 本書は単なる告発書ではなく、平和への願いや人間への優しいまなざしが随所に表れている。最近の社会情勢だからこそ多くの方に読んでいただきたい一書である。