ヘイトスピーチ解消法施行から1年
金 智子(きむ じじゃ)
IMADRプログラム・コーディネーター
日本で初めての反人種差別法「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」いわゆる「ヘイトスピーチ解消法」の施行から6月3日でちょうど1年を迎えました。理念法である「ヘイトスピーチ解消法」は一定の効果をあげたものの、差別排外デモや集会、インターネット上での差別やその拡散はいまも続き、また、国による初めての調査で入居差別など生活全般にわたる深刻な人種差別の実態が明らかになりました。研究者、弁護士、差別被害の当事者である在日コリアン、移住者、アイヌ、琉球・沖縄の人びと、カウンター(ヘイトデモに対抗する行動)の視点から現状と課題を明らかにするため、6月3日、「ヘイトスピーチ解消法施行1年~その現状と課題、人種差別撤廃基本法の実現へ~」と題した集会を在日本韓国YMCA(東京)で開催しました。集会には133人が参加しました。
法施行から1年間のヘイトスピーチの実態を報告した明戸隆浩さん(社会学者)は、法が施行された後の2017年3月までに行われた街宣は195件あり、前年の234件からそれほど減っていないと指摘しました。この1年間に行われたデモ・街宣での「殺す」「処刑する」などの「生命、身体、自由、名誉若しくは財産に危害を加える旨を告知」(法務省の参考資料が示すヘイトスピーチの3類型の1つ)する発言もなお残っていることも強調しつつ、「○○人を殺せ」の代わりに「○○人死ね」と言うことで一見ヘイトスピーチでないように見せかける「抜け道」を使ったヘイトスピーチに対しても、今後はしっかりと対応してく必要があると訴えました。
金明秀さん(関西学院大学教員)は、法務省による外国人住民に対する調査報告書のデータを分析し、「町内会・自治会があることを知っているか」という問いに、「知らない」と答えた外国人が40%以上いる。これは自治会から入会への勧誘を受けていないとみられる。また、たとえその存在を知っていたとしても「入会の仕方がわからない」「断られた」と答えた人の割合を合わせると40%にのぼる。これは外国人住民が日本の地域社会に必ずしも受け入れられていない状況にあると解説しました。また、入居差別を受けたことがある外国人が41%、就職差別に関しては25%が経験していることについて、「生存機会を左右する重大な差別実態」だとし、包括的な差別禁止法の必要性を訴えました。
現場からのリレートークではカウンターに立ち続けた団体が、法の施行後、デモは減ってきているのと同時に、ヘイトスピーチにあたると言われないよう巧妙に言葉選びが行われていると指摘しました。そして、今までの届出が必要なヘイトデモから、届出不要のヘイト街宣が増え、対応しきれず野放し状態になっていることに懸念を示しました。
研究者や弁護士、現場からの報告を受けたあと、集会アピールが採択されました。アピールでは法施行後のヘイトデモの回数、参加者数は減少したが、届出不要のヘイト街宣の回数は減っていないことに触れました。またネット上のヘイトスピーチに対して、被害者の申立てにより法務省人権擁護局がプロバイダーに何度も削除要請した結果、一部削除されたものの、全体的に野放し状態になっていることを指摘し、国および地方自治体に対し国際人権法上の義務に合致した人種差別撤廃政策と法整備を求めました。