国連自由権規約委員会 日本審査

IMADR事務局

 

 去る10月13日・10月14日、ジュネーブで自由権規約委員会による第7回日本政府報告審査が行われた。審査の概要について報告する。
審査に向けてIMADRは、ERDネット(人種差別撤廃NGOネットワーク)と協力してNGOレポート提出や、審査に先立って行われたNGOブリーフィングでのステートメント発表など、情報提供とアドボカシーに努めてきた。また、審査や総括所見の公表に際してはSNSでの情報発信にも力を入れた。

 

審査の様子(1日目・10月13日)
日本審査担当の委員による主な質問と政府の回答
Bassim委員:国内人権機関の設置に関して「女性差別撤廃条約、人種差別撤廃条約、社会権規約、障害者権利条約のそれぞれの委員会でも懸念が示されている」「なぜ国内人権機関の設置が遅れているのか?」
政府:「人権救済制度については様ざまな議論があり、検討を行なっている」
Bassim委員:「では、具体的に何を検討しているのか?」「現在ある省庁のなかには、国内人権機関の代わりになるような組織がないと理解している」
Yigezu委員:ヘイトスピーチ・ヘイトクライム対策に関して「中国人、部落、琉球・沖縄、アイヌ、そして在日コリアンを標的とした差別行為について多くの報告がある。政治団体や個人がメディアを用いてヘイトスピーチや虚偽の情報を流していることを懸念する。」「ヘイトクライムも含め、『ヘイトスピーチ解消法』では対応しきれていないのではないか?この法律の効果は具体的にどのようなものだったのか?」
政府:現行法上での対応について説明した上で「現在の範囲を超えて規制することに関しては表現の自由の観点などから非常に慎重な検討が必要」
Yigezu委員:「不当に表現の自由を制限すべきでないということは理解するが、では、差別の煽動と表現の自由のバランスについて具体的にどのように考えているのか?」
Muhumuza委員:女性への暴力に関する質問として「名古屋入管で命を奪われたスリランカ人女性、ウィシュマさんの事件を懸念する。DV被害者であったにも関わらず適切な保護を提供しなかったのではないか?」

 

審査の様子(2日目・10月14日)
Yigezu委員:外国人地方参政権について「日本国憲法は、永住権を持つ外国人に地方参政権を付与することを否定しているものではないと理解している。特に在日コリアンは、非常に長い間締約国の住民であり、税金やその他の義務を日本人と同等に課され、履行している。そうした背景を踏まえ、地方参政権を認めることは考えられないだろうか?」
Sancin委員:難民や入管政策に関して「入管行政に関してはウィシュマさんのケースに加えて他の死亡事例もある。こうしたことを防止するために何らかの対策をとっているのか?」「『仮放免』の人びとはたいへん困窮しており、かなり危険な状態に置かれていると聞いている。どのような対応を考えているのか?」マイノリティの権利に関連して「アイヌや琉球・沖縄の人びとが依然として差別されている。差別をなくすための施策や自然資源へのアクセスについて日本政府の考えを示していただきたい。」在日コリアンについて、「植民地時代から日本に住んでいる在日コリアン及びその子孫を、国民的または民族的マイノリティとして認める考えはあるか?また、社会保障へのアクセスや政治的権利の行使も含め、国籍によって差別することなく権利を保護するための措置について伺いたい」

 


 

総括所見の公表を受け、記者会見を開催
 以上のような質疑が行われ、その後、11月3日に委員会による総括所見が公表された。これを受け、ERDネットは11月7日(月)17時半から参議院議員会館にて緊急記者会見を開催した。IMADR、外国人人権法連絡会、移住連、民団中央本部、朝鮮人人権協会、女たちの戦争と平和資料館(wam)から勧告(以下を参照)の受け止めや、その意義について報告した。

 

主な勧告

  • 国内人権機関について
  • 人権の促進及び保護のための国内機関の地位に関する原則(パリ原則)に従った独立した国内人権機関を設置すること。

  • 差別禁止法について
  • 包括的な差別禁止法を採択することを含め、あらゆる形態の直接、間接及び複合差別に対して、適切な保護と、差別の被害者への効果的で適正な救済へのアクセスを提供することを確保するために、すべての必要な措置を講じるべきである。

  • ヘイトスピーチとヘイトクライム
  • 出身に関係なくすべての人に対する差別的な言動が対象となるよう、ヘイトスピーチ解消法の適用範囲の拡大を検討すること。
    ヘイトクライムについての定義および禁止規定を導入し、性的指向およびジェンダー自認の理由を含め、オンラインおよびオフラインのヘイトスピーチの行為を明確に犯罪化するための刑法改正を検討すること。

  • 性暴力およびDVを含む女性に対する暴力
  • 移民の法的地位にかかわらず、すべての被害者に迅速かつ適切な援助、支援サービスおよび保護が提供されることを確保すること。

  • 奴隷、隷属および人身取引の撤廃
  • 戦時中に日本軍が「慰安婦」に対して行った人権侵害の申し立てのすべてが調査され、加害者が訴追され、有罪となった場合は処罰されること。
    その他の国の被害者を含む、すべての被害者とその家族に対する司法へのアクセスおよび完全な賠償。
    教科書における適切な言及を含むこの問題に関する教育、および被害者を中傷し、できごとを否定しようとするあらゆる試みへの強い非難。

  • 難民および庇護希望者を含む外国人の処遇
  • 国際基準に合致した包括的な庇護法を早急に採択すること。
    移民が虐待を受けないことを保障するために、適切な医療援助へのアクセスを含む収容施設での処遇に関する改善計画策定を、国際基準に準じて行うなど、あらゆる適切な措置をとること。
    「仮放免」中の移民に必要な支援を提供し、収入を得るための活動に従事する機会の設定を検討すること。

  • マイノリティの権利
  • 締約国は、アイヌ、琉球そしてその他の沖縄コミュニティの伝統的土地および天然資源に対する権利を保障すること。子どもたちに独自の言語による教育を可能な限り促進するためのさらなる措置をとるべきである。
    そして、植民地時代から日本に居住する在日コリアンとその子孫を、利用できるはずの複数の支援プログラムや年金制度の利用から妨げている障壁を取り除き、永住コリアンとその子孫に地方選挙での投票権を認めるよう関連法の改正を検討すべきである。

  • 国内人権機関設置に関する勧告と難民及び移民の処遇に関する勧告の実施状況について、2025年までにフォローアップ情報を委員会に提供すること。次回の審査は2030年を目途にしており、それまでに事前質問リストによる次回報告の提出に協力すること。

 

なお、国連自由権規約委員会による日本政府報告審査に関する詳細な情報・資料、記者会見の資料などに関しては、以下に記載するURLのリンク先にアップロードしているので参照されたい。
URL: http://bit.ly/3NWAhWG

IMADRは、今回の審査の中で積み上げられた議論、委員会から示された勧告を活かし、今後も活動に努めていく。