報告 第31回ヒューマンライツセミナー

 9月12日(月)、第31回ヒューマンライツセミナー「LGBTQ+の権利—ビジネスと人権の視点から」(主催:第31回ヒューマンライツセミナー実行委員会)を、エルおおさかにて開催した。講師には、一般社団法人fair代表理事で同性愛者の当事者でもある松岡宗嗣さん、大阪経済法科大学の菅原絵美さんのお二人をお迎えした。
 3年ぶりの対面開催となった今回のヒューマンライツセミナー。新型コロナウイルス感染症の拡大は未だ予断を許さないものの、会場には280人が集まり、無事にプログラムを終えることができた。
ここに当日の概要、アンケートの結果などを報告する。

 

セミナーの内容
 開会の挨拶があった後、講師のお二人にそれぞれプレゼンテーションを行っていただいた。

 松岡宗嗣さんは、「LGBTQ+とは」「性や性のあり方」といった基本的な知識をおさえた上で、企業に勤める性的マイノリティが職場で体験しているSOGIハラ(性的指向・性自認に関するハラスメント)やアウティングの事例を紹介。パワハラ防止法では、SOGIハラやアウティング(当事者の同意なく暴露すること)もパワーハラスメントに含まれており、2020年より、防止対策をとることが義務化されていると語った。また、「ビジネスと人権」に関わる具体的な2つのケースとして、企業においてセクハラ且つSOGIハラという複合的な被害をトランスジェンダーなどの性的マイノリティが受けやすいといった現状や実例、work with Prideという任意団体が職場におけるセクシュアルマイノリティへの取り組みを評価する「PRIDE指標」を実施しているが、そこで高い評価を受けていたJRは、同性カップルを婚姻状態にあるカップル向けチケットの対象外としたケースについて紹介。
 前者は、企業によってはDiversity & Inclusionチームなど社内の部署が数ヶ月以内に対応するケースもあるそうだ。後者は、日本国内で同性婚を認める法整備などが遅れていることが企業のサービスにも反映されており、今後どのような議論が進むか注視する必要があると指摘した。

 菅原絵美さんは「ビジネスと人権」への国際的な関心の高まりの歴史的経緯について紹介した。1960年代以降の途上国での先進国多国籍企業の人権侵害の克服、持続可能な社会の実現に向けて人権の観点を踏まえた企業行動を求める国家の政策や法整備が進みつつあると語った。また、2011年に国連人権理事会で承認された「国連ビジネスと人権に関する指導原則」は、企業の人権尊重責任に関する初の国連文書であり国際社会における共通枠組(概念・施策)を示しており、これを指針として多様な主体による多層的なガバナンスを展開できるとも説明。指導原則は、①国家の保護義務、②企業の尊重責任、③救済へのアクセスという3つのモデルからなり、特に②については、国際的に認められた人権を尊重すること、自社の活動と取引関係が対象となること、人権方針を立て評価を行い(人権デューディリジェンス)、是正・救済のプロセスを用意することがポイントとなると語った。
 LGBTQ+の人々は労働者・消費者・地域住民として、それぞれ職場・市場・地域において当たり前に存在し、生活している。当然、企業活動ともあらゆるタイミングで関わるため、対話と協働を模索し、人権尊重責任を実施することが企業に求められていると指摘。国を超えて事業活動を行う際には、その国の状況を踏まえて人権尊重責任を果たしていくことも求められると付け加えた。
 講演の後は、会場からの質問を交える形で講師によるクロストークを行った。それぞれの講師からは以下のような議論、コメントがあった。

 

  • LGBTQ+の人権が脅かされない職場にするには?例えば、男性間性交渉を合法化したシンガポールではグローバル企業の進出の影響もあった。
  • JRのケースは、企業内の労働者に対する取り組みは進んでいたが、消費者に対する人権尊重の認識が不十分であったことが露呈したのでは。企業内での取り組みや啓発で労働環境が整備されることはもちろん評価できるが、商品開発やサービスの提供などにも活かす必要がある。
  • 国連の指導原則では、人権侵害が起こった際に何が問題だったのか明らかにし、被害者救済を行うことを求めている。TODOリストではないため、当事者との対話を通じて方針を立てる必要がある。そのために優先順位をつけて取り組むこと、被害者が声をあげられる仕組みを持っていることが重要。人権尊重をプロセスとして捉える必要がある。
  • 「多様性の尊重」「人権尊重」というと、企業のメリット・利益につながらないと上司がOKを出さないといったことがよくあると聞く。そうした観点から言えば、中長期的な利益として、「持続可能な社会」という大きな目的に向かっていくことで、この先、取引先・投資家・消費者・労働者(人材確保も含め)から選ばれる企業になるだろう。
  • 人権は普遍的なものであるはずだが、その人権の正当性自体が問われる状況がある。ジェンダーやセクシュアリティについて右派が強硬に法整備を止めるなど、バックラッシュも起こっている。企業として「国がやっていないから何もできない」ではなく、独自の方針を策定し、アドボケイトモデルとして人権課題の解決を推進する役割を果たすことも可能。

 

主な感想

  • ビジネスと人権の観点で国際的な流れ、今起きていることを捉え自分事化する初めての機会となりました。 「To doリストでバツがつくものではない」、心強さとともに、企業の主体性、自律性も問われていると感じました。
  • プレゼンテーションの後に質疑応答を踏まえたクロストークという形式だったため、理解が深まりやすかった。 学生インターンという立場であったが、マイノリティ支援や政策の為に何ができるかという学びを得ることができ、「対話」、「協働」の重要性を改めて実感できた。
  • LGBTQ+について自ら積極的に情報を集め、問題点や正しい認識を持っていないと無意識にハラスメントに繋がる行動をしてしまうかもしれない。積極的に関わる重要性を認識した。
  • 言葉を聞いたことはあったが、内容はよく理解できていないテーマだったので理解が深まり、よかった。 抽象的な部分が多く、セミナー内で理解できないのではと感じる部分もあった。

 

セミナーの感想アンケート結果(回収率 81.8% 280人中229人が回答) 
とてもよかった 32.3%
よかった 50.7%
ふつう 10.5%
あまりよくなかった 3.5%
よくなかった 0.9%
無回答 2.2%