「もう限界」困窮外国人の医療

大澤優真

つくろい東京ファンド/ 北関東医療相談会

 

医療を受けられない困窮外国人

2022年現在、新型コロナウイルス感染症拡大の影響による格差・貧困の深刻化が問題視されている。現在、日本には約294万人の外国人が暮らしており、こうした外国人も日本国民と同様に新型コロナウイルス感染症拡大の影響によって困窮化している。

コロナ禍以降、全国各地で民間支援団体や自治体による外国人向けの相談会や食料支援が行われている。2021年11月3日に外国人支援団体が東京都内の教会で開催した医療相談会には約140人の外国人が来場した。主催者によると、これは想定の2倍以上の人数であった。この相談会では、アフリカ出身者を中心に、若者から中高年、子連れの家族たちが訪れ、千葉県から来たという東南アジア出身の50代女性は「保険証がないので、病院は高くて行けない。風邪を引いても我慢して家で寝ていることが多い。しばらくおなかの調子が悪かったので相談に来た。医師が病院の紹介状を書いてくれ、診療費も支援してくれるというので安心しました。早く病院に行きたいです」と話していた(毎日新聞「外国人対象の医療相談会に生活困窮の140人 東京・千代田の教会」 2021年11月3日)。

こうした医療を受けられない困窮外国人は日本全国に存在する。国民健康保険など医療保険に入っている場合、原則3割の負担で治療を受けることができる。しかし、在留期間が3か月以下の外国人や在留資格を持っていない外国人は国民健康保険に加入できない。つまり、医療費が全額自己負担の100%になる。こうした状況にある外国人は約11万5000人いる(※1)。国民健康保険に加入できず、全額自己負担を強いられる場合、日本国籍者であれば生活保護という選択肢もある。しかし、生活保護を利用できる外国人は限られており、総在留外国人のうち48%、135万7729人の外国人が生活保護を利用することができない状況である(※2)。

国民健康保険からも生活保護からも排除されてしまった外国人は全額自己負担で100%の医療費を支払わなければならない。これは、実質的に医療を受けられないことを意味している。だからこそ、上述した医療相談会に多数の外国人が殺到したのである。こうした状況を踏まえて、長澤正隆・北関東医療相談会事務局長は「外国人が、ビザがないという理由で医療が受けられず、最低限の生活も保障されないのは差別的な扱いだ。…健康保険や生活保護などを使える仕組みに改善してほしい」と訴えている(毎日新聞 同上)。

 

「最後の砦」とその限界

このように、現在、多くの困窮外国人が医療を受けられずに苦しんでいる。そうした中、一部の医療機関が実施する「無料低額診療事業」によって命や健康を繋ぎとめることができている外国人もいる。「無料低額診療事業」とは、読んで字のごとく、生活困窮者が経済的な理由によって必要な医療を受ける機会を制限されることのないように、無料または低額な料⾦で診療を行う事業のことである。その対象は医療機関ごとに決められているが、外国人を対象としている医療機関もある。筆者は、国民健康保険や生活保護からも排除され、無料低額診療事業を実施する病院が受け入れていなければ、その人の命と健康が途絶えていただろうというケースを多く目の当たりにしてきた。無料低額診療事業は実質的に困窮外国人の命と健康を守る「最後の砦」となっている。

新型コロナウイルス感染症の拡大に伴って日本人・外国人の困窮者が増加している現在、こうした無料低額診療事業の必要性が高まり、無料低額診療事業を利用する受診者数が増加している。その一方で、医療機関はコロナによる経営悪化から無料低額診療事業の実施が厳しくなりつつある。全国福祉医療施設協議会が実施した「令和2年度 新型コロナウイルス感染症にかかる無料低額診療事業等への影響等に関するアンケート調査」によると、医業収益について、減少と回答する施設が5月期において入院で76.3%、外来で91.1%となっており、6月期には比率は下がっているものの、いまだ6割近い施設の収益が減少となっていることが明らかになった。また、ある医療機関は無料低額診療事業を継続するためにクラウドファンディングを実施した。無料低額診療事業の運営は寄付頼みの状況になっている。経営悪化を背景として、無料低額診療は日本人困窮者で手一杯となり、外国人の診療が断られてしまうケースが目立ってきている。困窮外国人の命と健康を守る「最後の砦」が崩壊し始めているのである。

こうした状況について、外国人支援に取り組んでいる医療ソーシャルワーカーのAさんは「当院における2020年度の無料低額診療事業の利用の5割が無保険の外国人。それは減免額全体の76%を占めている。無料低額診療事業の医療機関としては、外国人であっても医療費の減免を目指したいが、もはや一民間医療機関だけでは賄える状況ではない。医療機関が経営的に苦しくなっている中で、無料低額診療事業を実施している他の病院でも、『これ以上、保険に加入していない外国人に対する無料低額診療事業の活用は困難だ』という声も聞いている。無料低額診療事業だけで外国人の医療を支えるのはすでに限界だ」と指摘している。また、医療ソーシャルワーカーのBさんは以下のように話していた。今すぐに手術をしないと死んでしまう外国人が救急車で運ばれてきた。断ることはできない。幸いにも命は助かったが、病院側の負担は数百万円に上った。こういうことが頻発したら病院の経営は持たない。同時に、命を救うために受け入れを決め、病院に数百万円の負担を負わせることになったソーシャルワーカーは、経営と命の間の板挟みにあい苦しい立場に立たされている。「これではソーシャルワーカーは仕事ができなくなりますよ。本来は上の問題。善意あるソーシャルワーカーはみんなそういうふうにして苦しんでいる」。

無料低額診療事業を実施しているのは医療機関全体の0.4%(703か所:2018年現在)。この事業を実施している医療機関は法人税などが優遇されるが、実際に実施している医療機関からは「当院のような社会福祉法人などはもともと非課税となっている法人なので、新たな優遇を受けることはありません。そのため、医療機関の経営を圧迫しかねないんです」という訴えもある(週刊SPA「『命より収入を優先する患者たち』貧困にどう気づくか? 模索する医療現場の実態」2021年10月21日)。このような病院は持ち出しで外国人の命を支えている。なお、国立系の病院を筆頭に、困窮する無保険外国人に通常の2倍3倍の医療費を請求している医療機関がある。筆者もその現場に直面してきた。これらの医療機関は無保険の日本人にはこのようなことはしない。これは医療機関による外国人差別としか言いようがない。

 

今まさに「公助」が必要だ

こうした状況においても、善意ある医療機関は国民健康保険や生活保護から排除されている外国人を受け入れ続けている。しかし、それももう限界だ。善意ある病院だけに負担を押し付け、責任を丸投げしてはいけない。外国人の命と健康を守るためにも、今まさに「公助」が必要だ。

具体的には、無保険外国人に国民健康保険加入を認めること、生活保護を適用すること、無保険外国人を受け入れる医療機関への財政的保障などだ。現在、change.orgにおいて医師・医療ソーシャルワーカー・外国人支援者らが中心となって署名・要望活動を行っている。併せて参照されたい。この要望に沿って国が対応すれば、多くの困窮外国人の命と健康が守られる。医療を受けられずに苦しんでいる外国人の為にも、今すぐ、こうした対応がなされる必要がある。

●おおさわ ゆうま

※1総在留外国人数から在留外国人数を引いて、超過滞在者と仮放免者を足した数。これら以外の外国人も国民健康保険の対象・対象外となる場合がある。

※2生活保護を利用できる外国人は、特別永住者、永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、定住者など。