人種差別撤廃委員会 日本審査行われる

小森 恵
IMADR事務局長代行

2018年8月16・17日、ジュネーブのパレ・ウィルソンで人種差別撤廃委員会の日本審査が行われた。1995年に日本が人種差別撤廃条約(以下、条約)に加入してから4回目の審査となった。人種差別撤廃委員会(以下、委員会)は審査の結論である総括所見を8月30日に発表した。本稿では、今回の審査について、審査日程、審査内容、そして審査結果の3つの側面から報告する。

審査日程
人種差別撤廃委員会第96会期(8月6日~30日)では、モンテネグロ、ラトビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、中国、モーリシャス、キューバ、日本の審査が行われた。8月14日には委員会が開催するNGOとの非公式会合が開かれ、その週の審査国である日本のNGOも委員会へのプレゼンテーションを行った。1日おいて16日の午後のセッション(午後3時から6時)で日本審査が行われた。最初に委員会の事前質問リストに対して日本政府が回答し、次いで委員会から政府に対して多岐にわたる質問が行われ、1日目は終了した。翌17日の2日目は午前のセッションで(10時から午後1時)、まず前日の委員会からの質問に政府が答えた。次いで、再び委員会から質問があり、最後に政府が回答を行い、日本審査は終了した。両日の審査の内容は国連のウェブキャストで実況中継され、その動画は同じウェブキャストのサイトにアーカイブとして保存されている。
日本審査の担当委員にベルギーのマーク・ボスー委員が就いた。担当委員は総括所見の草案を作成し、会期の最終に委員会に提出をして協議され、採択される。審査では担当委員を含み18人の委員が自由に政府に質問できる。今回は、日本から初めて洪恵子さん(南山大学法学部教授)が人種差別撤廃委員会の委員に選ばれたため、実質は18人ではない。どの委員であれ自国の審査には関われないため、洪委員は審査を傍聴した。
日本政府代表団は総勢21人で、外務省の大鷹国連担当大使を団長に、関係省庁から派遣された職員から構成されていた。総じて若い年代の職員が多かった。
NGO側からは、委員会にレポートを提出した人種差別撤廃NGOネットワーク(ERDネット)、日弁連、民団、そしてジャーナリスト、国会議員(有田芳生・糸数慶子参議院議員)の計32人が参加した。

審査内容
ここでは、委員会の質問とそれに対する日本政府の回答の一部を抄訳して紹介する。◆は委員会の質問で●は政府の回答である(回答がないものもある)。

◆「ヘイトスピーチ解消法」の適用対象が非常に限定されている。被害の救済にほとんど効果がないのではないか?『ヘイトスピーチ、許さない!』というが、どのようにして許さないのか?
●誰に対するヘイトスピーチも許されないという態度で臨んでいる。全国311カ所に法務局があり、1万4千人の人権擁護委員が相談に応じている。漫画本やポスターなどを駆使し、ソフトアプローチからヘイトスピーチを含むあらゆる差別に対処している。地道な啓発活動が最も重要と考えている。
◆条約4条(a)(b)項を留保している具体的な理由は何か?留保を撤回する意思はあるのか?あるのならそれはいつになるのか?表現の自由を盾にヘイトスピーチを許すということになっているのではないか?
●ヘイトスピーチは名誉棄損や威力業務妨害など、現行の刑法で対処可能である。条約加入当時の留保の根拠は今も変わらない。今の日本が、留保を撤回して正当な言論の自由を不当に委縮させる危険を冒さなくてはならないほどの状況にあるとは考えていない。
◆「慰安婦」に対する政府の責任に関して公人は無分別な発言をするべきではない。
●日本は「慰安婦」問題を否定していない。だが一部に不正確な情報や理解があることも事実。吉田証言が大きな間違いを起こした。この問題について客観的に見ながら評価を行う必要がある。
◆「慰安婦」問題は韓国女性だけではない。他のアジアの国やヨーロッパにも被害者がいる。日本政府は歴史の事実を否定することで元「慰安婦」の尊厳を傷つけている。
●多数の女性の尊厳を傷つけたことを認め、アジア女性基金を設立して、医療施設や償い金支給など現実的な救済を図った。アジア女性基金は韓国、フィリピン、台湾の被害女性を対象にしてきた。インドネシアやオランダの被害女性にも財政支援をしてきた。性奴隷の表現に日本政府は強く反対する。

◆外国人住民調査で40%の回答者が賃貸住宅の入居を断られたと答えた。外国人はホテルやレストランで「日本人のみ」という看板を目にすると言う。人種差別を政府が禁止していないからではないか?
●民間の賃貸住宅については外国人の入居を拒まない大家の登録をしてセーフティネットを設けている。
◆国家公務員や調停員になるのに日本国籍が必要という差別はなくすべきではないか?日本に何世代も住んでいる40万人のコリアンが未だ日本国籍をもたず、これら公職につくことができないでいる。
●公権力の行使や公の意思の形成に関わる職務に就くには日本国籍が必要となるが、それ以外の国家公務員には求められない。家裁調停員は公権力の行使にあたる。公立学校の校長や教諭も公の意思の形成に参画する。講師はあたらないため外国籍者もなれる。
◆在日コリアンは日本人と同じ権利を保障されているのか?日本で生まれ育ったにも関わらず、地方参政権がない。
●参政権は民主主義の根幹にかかわる問題であり、国会での議論が必要と考える。
◆朝鮮学校が差別的扱いを受けている状況を解消すべきだ。拉致問題を理由に支給を止めているといわれているが、生徒たちとは何の関係もないし、韓国籍の生徒も多数いる。子どもたちの教育権の問題だ。
●高校就学金支援制度は学校が生徒に代わって受け取る仕組みであり、学校運営が法令に基づき適正に行われていることが要件。朝鮮学校についてはその確証を得られていないために不指定となった。民事訴訟が行われており、地裁4カ所の内、大阪をのぞき3カ所で国側の主張が認められている。
→9月27日大阪高裁が地裁の判決を取り消す判決を出した(13ページに関連記事)

◆日本政府は部落差別を人種差別として認めていない。部落の所在地情報がインターネットで流され、個人の出身を探り出すために身元調査が行われている。処罰はされていないのではないか?また、「部落差別解消推進法」には予算措置がない。予算がないのにどのようにして法律を施行するのか?
●1条の世系は社会的出身とは解釈していない。部落民は疑いなく日本国民である。いかなる差別もあってはならないし、憲法14条を厳格に守っている。ネットで戸籍情報が見つかればプロバイダーに情報削除を要請している。戸籍の不正取得には刑罰を科す。1996年の閣議決定で、部落差別撤廃は人権促進政策に組み込まれるようになり、予算もその政策の全体予算のなかで充当されている。
◆アイヌ民族の生活向上にどのような措置をとったのか?大学進学率が25.8%であり、他と比べて非常に低いようだ。
●生活実態調査(2017年)で、北海道庁のアイヌ民族生活向上推進方策のもと着実に効果を出していることが分かった。北海道庁は奨学金事業を行っているため進学率は確実にあがっている。
◆沖縄の人びとは米軍基地の事件や事故で度重なる被害に遭っており、抗議の声があがっている。事件事故の統計数字はあるのか?沖縄での米軍基地に関係する被害を減らすための対応を考えているのか?
●市街地にある普天間基地を辺野古に移設する準備をしている。普天間の危険性を回避するためだ。本土復帰以降のさまざまな施策により沖縄の社会経済状況は着実に改善されてきた。
◆外国籍の住民が社会福祉を受けるための条件は日本人とは異なるのか?日本人と結婚した外国人女性が在留資格をなくすことを恐れてDV被害を警察に通報するのをためらうことがあると聞いているが。
◆マイノリティ女性や先住民族女性に対する暴力や差別について情報がないので求める。
◆技能実習生の強制送還があると聞いているが、それは人権侵害ではないか?技能実習生の労働環境についても懸念をしている。この問題に関する詳細な情報と政府の効果的な対応を求める。
●(政府は2日後書面で回答した)
◆難民認定率は非常に低く0.17%である。難民は経済的に困窮しており、政府による支援が十分でないし、人種差別にあっている。
●1983年より生活困窮の難民申請者に生活費を支給している。難民申請制度を乱用・誤用する疑いのあるケースを除いて、申請から6~8ヵ月後には就労可能な在留資格を付与している。
◆公人や公務員のヘイトスピーチも制裁すべきであるが、対処していないのではないか?
●公人、公務員であれ悪質なものは刑事処罰の対象となるべきであり、除外をしているわけではない。
◆公務員にどのような人権教育をしているのか?条約に即して長期的で徹底的な研修をしているのか?具体的に研修しない限り、人種差別やヘイトスピーチの問題を公務員が理解して職務に活かすことはない。
●公務員、教員、警察職員、裁判官、矯正施設や入管職員、検察庁職員などに研修をしている。

審査結果
日本審査の総括所見には約18パラからなる勧告が含まれている。どの勧告も、より踏み込んだ行動をとるよう日本政府に促すものだ。勧告の一部をかいつまんで紹介する。
ヘイトスピーチ、ヘイトクライム
・ 対象範囲を広げ、被害者に十分な救済を提供できるよう「ヘイトスピーチ解消法」を改正すること。
・ インターネットにおけるヘイトスピーチをなくすために効果的措置をとること。
・ 法執行職員が適切に職務を遂行できるようヘイトクライムと「ヘイトスピーチ解消法」の研修を行うこと。
・ 政治家やメディア関係者によるヘイトクライム、ヘイトスピーチを調査して制裁を科すこと。
・ ヘイトスピーチ、ヘイトクライムを撤廃する行動計画を立てること。
在日コリアン、移住者
・ 数世代にわたり日本に住む在日コリアンが地方選挙で投票できるようにすること。
・ 永住外国人が公権力の行使ができるポジションに就任できるようにすること。
・ 移住者に対する社会的差別の根本的原因を解決する措置をとること。
・ 高校無償化や補助金供与において朝鮮学校が差別されないようにすること。
・ コリアン女性を複合差別とヘイトスピーチから保護すること。
部落差別
・ 部落差別を世系に基づく差別と認めること。
・ 部落民の戸籍データを機密扱いとし、濫用事案に対して刑事手続きをとること。
・ 「部落差別解消推進法」の実施に十分な予算を確保すること。
その他
・ アイヌ民族の土地と自然資源への権利を保護すること。
・ 琉球・沖縄の人びとの適切な安全と保護を確保すること。
・ 交差的な差別に苦しむ女性たちに注意し、諸課題の理解と対処のためにデータを収集すること。
・ 「慰安婦」問題において被害者中心のアプローチと永続的な解決を確保すること。

その他、条約実施に不可欠な人種差別禁止法の制定、国内人権機関の設置、個人通報制度の導入などに関してもこれまで同様の勧告が行われた。
条約加入から20数年、政府は世界の変化と人権の発展とはかかわりなく同じ姿勢を貫いている。一方、NGOは日本でますます顕在化、深刻化する人種差別と闘い続けてきた。委員会は、20年何も変わらない、いや変えようとしない政府に対して、より具体的で実効性のある措置をとるよう迫った。その違いが鮮明に表れた審査であった。

** 総括所見の全訳はIMADRのウェブサイトでご覧いただけます。

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