スウェーデンのムスリム女性

小松泰介
IMADR事務局次長 ジュネーブ事務所

2018年4月23日から5月11日に開催された国連人種差別撤廃委員会(CERD)95会期において、キルギスタン、ペルー、サウジアラビア、ネパール、モーリタニア、スウェーデンの6ヵ国の審査が行われた。IMADRは各国から審査に参加した市民社会のアドボカシーのサポートを行った。スウェーデン審査においては、先住民族サーミの代表や人権NGOと共に、イスラム系コミュニティを代表して「イスラム系スウェーデン人協力ネットワーク(以下、ネットワーク)」が審査に参加した。
ネットワークの報告によると、スウェーデンでは2014年以降から極右政党が主張してきた「スウェーデンの価値観を守る」という考えが政治の本流に浸透してきており、それに伴ってイスラム教徒が「スウェーデンの価値」や「スウェーデンらしさ」の脅威とみなされるようになった。スウェーデンでは人口統計に宗教や信仰は含まれないために正確な数は不明であるものの、推定で40万人から45万人のイスラム教徒がいるとされており、これは全人口の約10%にあたる。

 

ムスリム女性の生きづらさ
スウェーデンはジェンダー平等を推し進めており、世界において最も成果を収めている国の一つである。それはスウェーデン社会の重要な価値観となっている。しかし残念なことに、それが極右政党などによってイスラム教徒を攻撃する口実に利用されている。ムスリム女性が着用するヘッドスカーフはしばしば抑圧の象徴と非難され、メディアでも頻繁にムスリム女性のイメージが暴力、抑圧、原理主義などと結び付けられている。そのことで、ヘッドスカーフは問題であるという意識が多くの人びとに植えつけられた。そのため、イスラム教徒を狙った人種主義者によるヘイトクライムの被害者の過半数を、ヘッドスカーフを着用している女性たちが占めるようになった。彼女たちは電車やバス、スーパーマーケットなどの公共の場で罵声を浴びせられたり、ヘッドスカーフをもぎ取られるなどの被害を受けている。ネットワークの報告によると、ヘイトクライムから身を守るために、ヘッドスカーフの着用をやめることを考える女性たちが近年増えてきているそうだ。また、ヘッドスカーフを着用するムスリム女性たちに対する雇用における差別事件も度々報告されている。これらのことは、今日のスウェーデンでムスリム女性であることを公に表明して生きることの難しさを物語っている。
ネットワークによれば、スウェーデンではこういった人種差別の現状を把握するための細分化された統計がとられていない。CERD委員へのNGOブリーフィングでネットワークの代表の女性が、「スウェーデンではジェンダー平等のための女性一般に関する統計はしっかりととられているが、イスラム教徒などのマイノリティ女性に関しては細分化された統計が取られておらず、ジェンダー平等政策においてマイノリティ女性が置き去りになっている」という趣旨の発言をしたことが非常に印象深かった。

 

求められる実態把握
これらのムスリム・コミュニティからの報告と政府審査の後、CERDは「特に弱い立場に立たされた集団に対する差別の影響を分析し、最小化するためのデータ収集をすること」をスウェーデン政府に勧告した。複合差別の問題を解決するには、それに特化したデータ収集と対策が不可欠であることを象徴する審査であった。

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