UPR審査と日本の人種差別

小松泰介
IMADR事務局次長 ジュネーブ事務所

今年3月の国連人権理事会37会期において、3回目となる日本の普遍的定期審査(Universal Periodic Review、以下UPR)の結果文書の採択が行われた。この採択において、日本政府は217に及んだ106ヵ国からの勧告に対して、それぞれを受け入れるかどうかの立場表明を行った。

145の勧告を受け入れ、72の勧告を留意または部分的に受け入れるとした採択時の声明において、日本政府は民主主義、自由、人権そして法の支配といった基本的価値を重視し、国内外における人権の尊重と保護に努めてきており、NGOを含む市民社会との対話にも重点を置いていると強調した。政府は特に女性、子ども、障害者の人権の保護と促進へのコミットメントを表明した一方、人種差別撤廃のための取り組みについては一切言及が無かった。「ヘイトスピーチ解消法」や「部落差別解消推進法」の制定という一定の前進があったにもかかわらず、人種差別根絶に対するコミットメントを日本政府から聞けなかったのは残念であった。

この結果文書の採択においては時間制限の都合上、勧告を出した国のうち12ヵ国、NGOは10団体までの発言が許された。チュニジア、スーダン、アルバニア、エジプト、エチオピア、ガーナ、ハイチ、ホンジュラス、イラン、イラク、ラオス、マダガスカルが発言したが、自国が出した勧告を日本政府が受け入れたことを歓迎する内容に終始した。

対照的にNGOからは厳しい発言が続いた。ここではIMADRの口頭声明の内容を紹介したい。まず、日本政府が包括的差別禁止法の採択に関する勧告を受け入れなかったことを指摘し、遺憾の意を表明した。現行の日本の法律は人種差別からの効果的な保護という点で不十分であり、マイノリティや先住民族の団体などを含む日本の市民社会は人種差別撤廃条約および国連人種差別撤廃委員会からの勧告に則って法整備を行うことを求めてきたことを繰り返した。

また、独立した国内人権機関の設置、拷問禁止条約を除いた国連条約機関の個人通報制度の受け入れ、「すべての移住労働者とその家族の権利の保護に関する国際条約」の批准といった勧告を日本政府が受け入れたことを歓迎する一方で、過去二回の審査でも政府は同様の勧告を受けいれながら10年間それらの勧告は実施されていないことを指摘した。

さらに、マイノリティ、先住民族および外国籍の人びとに対する暴力や技能実習制度といった人種差別関連の勧告の多くが受け入れられたことを歓迎しつつ、在日コリアンや琉球・沖縄の人びとに特化した勧告を政府が受け入れなかったことを懸念した。高校授業料無償化からの朝鮮学校の除外は差別ではないとした政府回答については、在日コリアンの子どもたちに対する差別となっている結果を無視していると指摘した。同様に、民族マイノリティとして琉球の人びとが経済権、社会権、文化権を十分に享受するための措置を強化するよう求めた勧告については、政府は日本の先住民族はアイヌ民族だけであるとして受け入れなかった。これは今も琉球・沖縄の人びとが直面している構造的差別と人権侵害に対する視点が抜け落ちていると非難した。

いくら文書の上で勧告を受け入れても実施されなければ意味がない。実際に過去二回の審査の勧告は選択的かつ散発的な実施に留まったことから、今回審査の勧告の具体的な実施のために国内行動計画を政府が作成し、その行動計画の作成と勧告の実施にあたって政府が市民社会と有意義に協力することも求めた。

マイノリティや先住民族コミュニティからの長年の要望である包括的差別禁止法の制定について、日本政府の前向きな姿勢を見られなかったことはとても残念である。今年8月には人種差別撤廃委員会による日本審査が控えており、差別禁止法の必要性について再び議論が交わされることが予想される。その時に前向きな議論ができるためには、IMADRを含め市民社会による草の根の働きかけが求められている。