法律をなし崩しにするインド最高裁判決

V.A.ラメッシュ・ナタン(博士)
SC/ST残虐行為防止法強化のための全国連合

背景
カーストに基づく差別はさまざまな領域に及ぶ人権侵害であり、インド亜大陸全土に広がり、社会の隅々において不平等を維持している。インドでは、カーストは人びとを社会的に組織する仕組みとして使われており、どのカースト集団に属するかによって権利の付与が決まる。指定カースト(SC)はカースト階層の低位におかれているカースト集団であり、指定部族(ST)は先住民集団のことである。指定カーストと指定部族はともに残虐行為をもっとも受けやすい集団である。このことは、1989年に政府がSC/ST残虐行為防止法(以下、防止法)を定めたことが実証している。だが法律が成立しても、指定カーストに対する残虐行為は近年特に増加している。2017年の国家犯罪記録局のデータによれば、指定カーストに対する犯罪件数は、2015年の3万8670件から2016年は4万801件に増えている。

2015改正SC/ST残虐行為防止法の経緯
インド憲法17条は不可触制を禁止し、指定カーストと指定部族の保護を規定しているにもかかわらず、SC、STともに歴史的に不可触制と暴力にさらされてきた。カースト差別撤廃という憲法の主旨にかなうため、インド議会は市民的権利保護法(PCR)を1955年に成立させた。
PCRはむしろ不可触制に重点を置いた法律であり、指定カーストや指定部族に対する差別や暴力を維持する社会構造に対処はしていなかったため、政府は1989年に防止法を制定した。防止法は特別な法律であり、社会正義と平等の実現を誓約しているインド憲法の延長である。
しかし、インド・ダリット人権全国キャンペーン(NCDHR)による防止法のこれまで20年にわたるモニターは、この法律の施行の実績は、連邦および州政府の両方において満足できるようなものではないことがわかった。警察および政府役人が、残虐行為の被害者や証人に対して適切で妥当な対応を行っているとは言えない。裁所においても、残虐行為事件の多くは技術的な根拠が理由で、あるいは検事が事件の根拠を適切に示すことができなかったために、加害者に有利な判決を出してきた。
そのため、抜け穴だらけの防止法を見直し、2015年には強化のための改正が行われた。その時、NCDHRを含む多くの人権団体が改正を求めて運動をした。

最高裁の判決とダリットの裁判権への影響
2018年3月20日、インド最高裁はS.K.マハジャン博士対マハラシュトラ州のケースに判決を出したが、そのなかに、防止法のもと悪意のある訴えや事件が捏造された場合、先行保釈を絶対に認めないという制約はないとする命令を出した。さらに、防止法のもと残虐行為を働いた公務員を逮捕する場合、事前に加害者が指名した当局による承認を要件にするという命令も出された。さらには被害者の事件届け出を警察が書面にした第一情報報告の正式な受理は、警察副本部長の調査を経てから行うという命令も含まれている。改正防止法の実施さえ危ぶまれているなか、最高裁の判決はこの進歩的な法律の目的そのものをなし崩しにするものだ。
「先行保釈禁止」の規定は、被害者を支配カースト層の脅しから守り、残虐行為を未然に防ぐために法律のルールに加えられた。今回の最高裁の命令は加害者が簡単に先行保釈を得ることを可能にする。そのため、事件の加害者が被害者を脅して譲歩を迫ったり、反撃をかけてくる可能性が高まる。
時機を得た逮捕は犯罪防止において、また被害者やコミュニティに自信を植え付けるうえで、遠回りではあるが大事なことだ。容疑者が逮捕されなければ、被害者に対する連続的な犯罪を招く危険性をもたらす。あるいは、被害者や目撃者を脅しながら証拠改ざんを行ったり、悪くすれば姿をくらますかもしれない。この最高裁判決はこれまでの正義実現のプロセスを遅らせ、容疑者保護の方向に機能するだろう。この命令により、残虐行為が増え、事件の届け出が減少するだろう。
公務員逮捕の場合は事前に当局の承認を必要とするとした命令は、残虐行為を行った公務員の不処罰をさらに許すことになるだろう。なぜなら、関係当局が同僚である公務員の逮捕を勧告することは考えられないからだ。
さらに、第一情報報告(FIR、被害者の届け出を元にして警察が作成する報告書)を正式受理する前に、警察副本部長による予備調査を求めた最高裁の命令は、防止法のもと被害者が届け出た事件が、FIRとして受理されることを極端に難しくする。現状においても、指定カーストや指定部族が受けた残虐行為の被害がFIRとして受理されるには、警察に根深い偏見があるため、たいへんな労力を要する作業である。
アジア・ダリット権利フォーラム議長のポール・ディバカーは、「最高裁は指定カーストや指定部族を保護する特別法を強化するのではなく、むしろ裁判へのアクセスを妨害し、ダリットや先住民族を50年前に押し戻している」と述べた。

ダリットコミュニティの怒り
最高裁のSC/ST残虐行為防止法に関する裁定は、すでに混乱しているダリットコミュニティにさらに追い打ちをかけた。判決を厳しく批判する声はいくつもの進歩的な民主団体から挙がっている。
怒りを表すため、数千人のダリットが街に出て、判決を無効にするよう求めた。複数のダリット団体が連携して、4月2日に平和的な全国規模のストライキをするよう呼びかけた。それに応じて、国のあちこちでデモ行進や抗議行動が行われた。全国ストライキの日、抗議は暴力に変わり、少なくとも14人が死亡し、大勢の人びとが負傷した。数千人のデモ参加者が騒乱予防として逮捕された。全国ストライキは多数の政党や民間団体の支持を得た。

SC/ST残虐行為防止法強化全国連合
2009年より、SC/ST残虐行為防止法強化のための全国連合(NCSPA)は、1989年の防止法が効果的に運用されるよう、改正を求める運動をけん引してきた。連合は政策提言や法律実施のモニターなどを行いながら、防止法が強化されることを目指した一連の全国キャンペーンに参加してきた。
最高裁の命令のあと、連合の中核メンバーは4月6日に緊急に集まり、広範囲にわたる議論を行った。連合は、連邦政府、州政府、すべての政党とその党首、そしてすべての市民社会の構成員と団体が、最高裁裁定反対に毅然とした態度をとるよう求め、以下の行動をとることを確認した。
* 最高裁判決はSC/ST残虐行為防止法を後退させるという世論を形成する。
* 連邦政府と州政府に対して圧力をかけ、1989年のSC/ST残虐行為防止法の現状を司法手段によって復帰させるようにする。
* 議会を通して、最高裁の判決を覆すような布告を法制化するよう求める。
* 1989年SC/ST残虐行為防止法と1995年のルールを、インド憲法の第6付則に含めるよう要求する。
* SC/ST残虐行為防止法への最高裁命令に関して国会議員の間の政治的意思を主張し、我々の要求を支持するよう求める。
翻訳:小森 恵

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