「今こそ行動する時です」

テンダイ・アチウメ
人種差別に関する国連特別報告者

はじめに国際人種差別撤廃デー記念集会でお話しする特別な機会をいただいたことに対して感謝申しあげます。
世界中で人種的平等は危機にさらされています。露骨な憎悪や人種優位のイデオロギーなどの言説は極端なことではなくなり、主流になってきています。人種的、民族的、宗教的偏見はマイノリティ、難民、移民、無国籍者、国内避難民などに対する過激な暴力をはじめとする人権侵害を助長して、特に女性、そして多様な性的指向やジェンダーの人びとに対して深刻な影響をおよぼしています。この偏狭はあからさまです。シャーロッツビル、ワルシャワ、ベルリンでネオ・ナチのスローガンを掲げて行進する若者から、人種主義的な姿勢を見せる世界の政治指導者たちに至るまで、あるいはロヒンギャに対する民族浄化からアフリカ系住民に対する警察の過剰な実力行使に至るまで、人間の尊厳に対する攻撃は憂慮すべきレベルに達しています。
日本の朝鮮総連本部事務所への銃撃は、他国と同様、日本も人種や国籍、民族その他を理由とする過激な不寛容から無関係ではないことを示しています。
露骨な人種主義がますます台頭するようになったこの時に、国際人種差別撤廃デーを記念することは非常に意義のあることです。さらに今年は世界人権宣言70周年でもあります。人間の尊厳、実質的平等そして非差別の原則を世界で再確認するために、人びとが結束することをこの日は求めています。

人種差別の問題は構造的に捉えるべき
今、あちこちのメディア空間で見られるようになった衝撃的な人種差別の発現は、一国の政治論議にも飛び出すようになりました。しかし、現在の人種差別の問題はそれよりも大規模で根深いことを私たちは認識しなくてはなりません。現在の憂慮すべき状況においても、次々に起きる深刻な差別や不寛容の事件に世界の注意が向けられがちですが、人種差別の問題は構造的に捉えて、闘わなくてはなりません。

日本を含む世界の政府は、人種差別撤廃条約など現行の国際人権と反差別の基準を実施するための包括的な法と政策の枠組みをしっかりと築き、その上に立って差別と不寛容をなくす措置をとるべきです。このため、国際人権法に拘束されている日本が、包括的な差別禁止法を制定することは喫緊の課題です。たとえば、人種差別撤廃委員会が強調しているように、日本が条約1条に規定する人種差別(民族的・種族的出身、肌の色、世系に基づく差別)を禁止する国内法を採択することは非常に重要です。人権高等弁務官事務所および人種差別特別報告者である私は、任務として、そうした法律制定のための技術的支援を提供できます。
もちろん、反人種主義の国内法の枠組みは基本的なことであり、この枠組みを実施するという決意が伴っていなければなりません。それに加え、日本の政府、市民組織、社会運動および活動家は、植民地主義およびそれが築いた帝国の歴史と遺産に根を広げている人種的不平等の構造的要因に対して、新しい力と注意を注がなくてはなりません。同時に、マイノリティと外国人を外部からの脅威に仕立てあげる外国人嫌悪によるスケープゴートや、根拠のない人種的な不満を人びとの間で広める構造的な経済的、政治的、法的要因に対しても、早急に注意を向けなくてはなりません。差別と不寛容の根絶には社会全体の構造の変革が必要です。それが社会の結合を強め、さらにその結合が政府の政策や民間セクターの社会参加の基礎的な論理となります。日本政府は国民的、民族的、人種的あるいはその他のマイノリティ、そして領土内にいる移住者を守るため、早急に断固たる行動を取らなければなりません。

強迫観念の植え付けとポピュリズム
復活する憎悪、そしてそれに伴走する構造的な人種差別および外国人差別は、標的となる集団だけに猛威をふるうものではありません。人権高等弁務官のゼイド・ラアド・アル・フセインは、「私たちは政治的利益を目的とした憎悪の扇動に慣れはじめてきている。マジョリティ人口への脅迫観念の植え付けが今日の民族的ポピュリズムを作っている。それは示唆された怒りのはけ口と共に圧倒的な不満の感情を生み出している。そしてそれは権力を強化している」と、警告しました。過激主義と構造的な人種排斥は国際秩序を形成しているそれぞれの国の政治的および法的基盤を脅威に晒しており、日本も例外ではありません。
国際人種差別撤廃デーの重要な目的は、国家が人権の基本原則を守り、すべての人に実質的平等を保障することを再び誓うための共通の場を提供することにあります。ジェンダー、性的指向、市民性およびその他の社会的分類に基づく差別と人種差別が交差するあらゆる形態の差別をなくすための共通の場です。

日本に公式訪問を申し入れ
最近、私は日本政府に公式訪問の要請を行いました。国別訪問は人種的平等を進めるために両者が戦略的に協力できる重要な機会を提供します。このことからも、日本政府に必ずこの要請を受け入れていただきたいです。私のマンデートの一つは人種差別に関する苦情を受けとることです。皆さんが人種主義に対するアクションと対話促進の手段としてこの通報手続きを利用されることを奨励します。苦情申し立て通報手続きに関して詳しく知りたい方はracism@ohchr.orgにメールをしてください。
皆さん、今こそ行動をとる時です。今日は貴重な機会をいただきありがとうございました。
翻訳:反差別国際運動