エルネスト もう一人のゲバラ

今井 貴美江

(一社)部落解放・人権研究所啓発企画部職員

 

「かっこいいオダジョーが“チェ”の同志を演じるなんて、観に行かないわけないでしょう」と、かなりミーハーな気分を交えて、スクリーンで観た『エルネスト』。

ボリビアでゲバラと共に戦った日系2世、フレディ前村。ゲバラからもらった戦士名エルネスト。実在した二人の「エルネスト」の人生を追った映画は、日本訪問中のエルネスト・ゲバラの広島訪問から始まります。原爆慰霊碑に献花をし、資料館を見学したゲバラは同行した中国新聞の記者に「君たちはアメリカにこんなひどい目にあわされてなぜ怒らないんだ」と問いかけます。とまどう記者の姿は、当時から現代までの私たち日本人の姿を象徴するようです。

もう一人のエルネスト、フレディはボリビアからキューバへ医師をめざしてやってきた留学生。キューバ政府の奨学生として憧れのゲバラに会い、社会主義に傾倒し、「革命なんて夢だ」と言い捨てる仲間にも、「夢を見て何が悪い!」と言い返す、理想を求める誠実な若者でした。優秀な医学生として、奨学生仲間のリーダー的存在として、淡い恋心を持つ女性を支えながら充実した生活を送っていたフレディ。しかし彼はボリビアにクーデターが起こり、軍事政権が発足すると、教官が止めるのも振り切り、祖国でゲバラが指導するゲリラ部隊に身を投じます。形勢は不利、ゲバラたち本隊とはぐれて、森をさまよい、政府軍に捕まった彼が出会ったのは、留学前、食料や薬を届けていた友人の弟でした。彼に「こいつは貧しい俺たちをバカにしていた成金の息子だ!」と糾弾され、射殺されてしまう。死に臨んで彼が叫んだ言葉は「夢を見て何が悪い!」。享年25歳。原作『革命の侍』という彼の姉がしたためた史実に基づく物語です。

映画で映し出されるゲバラの言葉、「もし我々を空想家のようだと言うなら、救いがたい理想主義者だと言うなら、できもしない事を考えていると言うなら、我々は何千回でも答えよう。その通りだと」。ゲバラは公平・公正な社会をめざして圧政と戦い、権力を得た後もその座にとどまらず、最後まで正義のために闘った英雄という評価がある一方、多くの人びとを死に導いた指導者という評価があります。実際、理想を求めて闘い、亡くなったフレデ

ィに胸が締めつけられつつも、武力以外で闘う方法はなかったかと思わずにいられません。中南米史は詳しくないので一概に言えませんが、同じくこの秋に上映された『コスタリカの奇跡』には、軍隊を捨て、教育・福祉・医療の充実をはかった指導者たちとそれを支持した民衆が描かれています。ゲバラたちにも何か別の方法があったのではないかと思わざるをえません。

映画を観る前、「あのゲバラに評価されたすごい日本人!」調の話だったらどうしようという不安もありましたが、それは杞憂で、フレディはたまたま日系の、祖国を思う一人のボリビア人で、大好きなオダギリジョーはすっかりボリビアのいち若者になっていました。

多くの若者たちが抑圧からの解放をめざし、正義を求めて命を落とした。そんな歴史が繰り返されることのないよう、私たちはそのスピリットを受け継ぐ一方、別の道をたどって公平・公正な社会を求めていかなくてはと思わせられる映画です。

 

『エルネスト もう一人のゲバラ』

2017年 日本・キューバ合作 阪本順治監督