小松 泰介(こまつたいすけ)
事務局次長 ジュネーブ事務所
3月17日、国連人権理事会34会期にてIMADRはフランシスカンズ・インターナショナルとマイノリティ・ライツ・グル―プ・インターナショナルと共に「スリランカの移行期の正義プロセスにおける女性とマイノリティの権利」と題したサイドイベントを開催した。これは2015年から始まった内戦関連の人権侵害や戦争犯罪の問題の解決に向けたスリランカ政府の取り組みをモニタリングした国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)の報告書と、マイノリティ問題に関する特別報告者のスリランカ訪問報告書の発表に併せて行ったものである。
イベントでは国連人種差別撤廃委員会(CERD)議長のアナスタシア・クリックリーさんによる進行の下、上記特別報告者のリタ・イザック・ンダイエさん、そして異なる宗教的・民族的背景を持つ3人のスリランカ女性がパネリストとして登壇した。今回のイベントは今まで十分に議論されてこなかった女性の人権問題をスリランカ女性たち自らが国際社会に訴えると共に、それぞれのコミュニティに属する女性の経験の異なる点と共通点を確認する貴重な機会となった。以下、イベントの要約を紹介する。
まず初めに民族的多数派のシンハラ人かつ宗教的マイノリティのキリスト教徒女性である二マルカ・フェルナンドIMADR共同代表は、スリランカで女性は人口の52%にもかかわらず、内戦と軍事化、家父長制と文化的・政治的な力の不平等によってマイノリティとされていると話した。それゆえ、移行期の正義プロセスに女性が参加することは、それぞれの民族・宗教コミュニティの女性たちがお互いの経験を共有し、女性の人権を向上させる機会であると強調した。
つづいて民族的マイノリティのタミル人女性であるサロジャ・シバチャンドランさんも内戦によって最も苦しんだのは女性であり、女性が移行期の正義プロセスにおける意思決定に参加する必要性を繰り返した。しかし、スリランカの司法は長年にわたって独立性と実効性が欠如していることから、強制失踪や超法規的処刑、性暴力の加害者の訴追と被害者やその家族への補償がどこまでなされるのか疑問を投げかけた。
ムスリム女性のジェンシラ・マジードさんは、ムスリム・コミュニティの問題は常に「マイノリティ問題」を語る時に取りこぼされ、タミル・コミュニティの問題ばかりに関心が集中する傾向を非難した。ムスリム・コミュニティはLTTE[1]によって強制的に国内避難民とされ、内戦終結後も満足な帰還措置が取られずに今も苦しい状況にあることを説明した。特にムスリム女性は収入源となる土地への権利が十分に守られていないことや、18歳以下の少女の婚姻が未だに認められていることなど、自分たちのコミュニティ内における複合差別の問題を話した。
最後にリタ・イザック・ンダイエ特別報告者はスリランカがシンハラ人、タミル人、仏教徒、ヒンドゥー教徒、キリスト教徒といった主たるコミュニティに限らず、ヴェッダやアフリカ系スリランカ人などのその他のマイノリティが暮らす多様性に富んだ社会であることに感銘を受けたと話した。その上で、特別報告者は母子家庭、戦争で夫を亡くした女性、強制失踪した家族を探す母親や妻たち、元LTTE女性兵士といったマイノリティ女性が経験している問題が移行期の正義プロセスに特別な関心を持って取り上げられるべきであると指摘した。これらの女性たちは今も弱い立場に置かれ、差別や搾取の対象となっている。特別報告者によると、多くの場合マイノリティの権利運動は男性によって率いられる一方、女性運動は多数派の女性によって占められていることによって、マイノリティ女性は頻繁にその狭間に落ちてしまっている。そのことから、特別報告者は女性たちが安心して話し合うことのできる女性だけの議論の場をスリランカ政府が用意することを奨励した。それは異なるコミュニティの女性たちが連帯し対話をすることができる開かれた場となると話した。
[1]少数派のタミル人による独立国家建設を目的としていた反政府組織「タミル・イーラム解放の虎」の略称。