波多野 綾子(ニューヨーク大学ロースクール 法学修士課程 国際法学専攻、IMADR特別研究員)
皆様こんにちは。私は2016年9月からニューヨーク大学(NYU)ロースクールの法学修士課程(LL.M.)で国際法学を専攻しています。国連や人権NGOが日々活発に動くニューヨークで国際人権法を学ぶという機会に恵まれたため、これから数回にわけて、ニューヨークから人権関連の動きをお伝えしていきたいと思います。第1回目は、特に私の生活の中心であるNYUロースクールの様子を中心にお伝えします。
NYUは1831年創設の伝統ある私立総合大学で、特に私の学ぶロースクールでは国際法・国際人権法について、非常に充実した教授陣とカリキュラムを誇っています。国際法の第一人者であるベネディクト・キングスベリー教授が「国際法における先住民族」について教えている傍ら、現在、「極度の貧困と人権に関する国連特別報告者」であるフィリップ・オルストン教授が国際人権法の教鞭をとり、また、「真実、正義、賠償そして再発防止の促進に関する国連・特別報告者」であるパブロ・デ・グレイフ氏が移行期正義についてのゼミをもつなど、まさに実務とアカデミアが交錯するところと言えるでしょう。
私自身は、上記のオルストン教授の国際人権法の授業に参加していたのですが、オルストン教授が国連の特別報告者として取り組む人権問題について、まさに現在進行形の情報・経験を直接伺いながら人権法理論とその実際を同時に学ぶことができています。一例として、学生たちで第71回国連総会第三委員会(国連本部)にてオルストン教授が行なった特別報告者の報告書の発表を聞きにいく機会がありました。報告の内容は、2010年大地震後のハイチでコレラが大流行し多数の死者が出た原因として、国連の平和維持活動(PKO)部隊が菌を持ち込んだことを指摘するものです。この報告は2016年12月に潘基文前国連事務総長が国連の責任を認め謝罪することにつながりました(ただ、国連は法的責任については未だ認めていません)。授業では公にはなっていない報告書作成の裏側等も語られ、特別報告者の活動の意義について改めて認識を深めています。他にも、授業やイベントにゲストとして招かれる国連職員や、ヒューマン・ライツ・ウォッチのディレクター等、NYで働く人権関係のプロフェッショナルと頻繁に生の議論を交わすことができるのはまさにこの土地の醍醐味です。
また、実際にクライアントとのプロジェクトに従事しながら人権アドボカシーについて学ぶクリニックでは、人権問題に関する事実発見の方法論、国際人権メカニズムを利用したアドボカシーや訴訟の方法、メディアの利用や協働の仕方等の学びと実践の機会が得られます。プロジェクト内容は多岐にわたり、人権条約の政府報告書審査や普遍的定期的審査(Universal Periodic Review: UPR)において現地NGOのシャドー・レポート作成やジュネーブでのアドボカシーを支援するものから、現地の人権状況について事実調査や聞き取りを行ない、調査レポートを執筆・発行するなどの活動が行なわれています。ただ、毎回活発な議論が交わされる本クリニックのセミナーも、2016年11月に行なわれた米国大統領選挙の翌日は重苦しい静けさに包まれ、泣き出す学生も多くいました。「人権活動家にとっては困難な時代がくる」と、来たる政権下で人権問題に取り組むために、大学として、学生として今何をすべきかが教育機関においても真剣に話し合われています。
世界のビジネスを牽引する大都市であると同時に、ホームレスの数も多く貧富格差の象徴のような街であるニューヨーク。また、多くの人種・言語が分離したまま併存するニューヨークの街に、アメリカの抱える問題のみならず世界の問題の縮図も見ています。
アメリカの法制度や日本との比較等、ロースクール関係でも他にもまださまざまご紹介したい活動があるのですが、次回は国連を中心とした活動等についてレポートしていきたいと思います。