国連マイノリティフェローシップ・プログラムを終えて

金智子(きむじじゃ)

IMADR プログラム・コーディネーター

 

2016年11月7日から25日までの3週間、スイスのジュネーブ本部を置く国際連合人権高等弁務官事務所(OHCHR)によるマイノリティフェローシップ・プログラムに参加する機会を得た。インド、パキスタン、キルギスタン、エジプト、イラク、コロンビア、ウクライナ、セルビア、カメルーン、モルドバからの11人と共に3週間のプログラムを終えたので、そのまとめを報告する。

このプログラムは、マイノリティに属する人権活動家がマイノリティの権利を守り、促進するため、国際人権とマイノリティの権利に取り組む国連のシステムや仕組みを学ぶことを目的としている。そのため、3週間のプログラムはとても充実したものだった。1週目は、国際人権とマイノリティの権利に関わる国連のシステムである人権理事会、普遍的・定期的レビュー(UPR:4年半ごとに国連加盟国全ての国の人権状況を普遍的に審査する枠組み)、特別手続きなどについて学んだ。講師はOHCHRの職員やジュネーブで活動するNGOの職員が主で、ほとんどのセッションは国連本部にほど近いOHCHRの事務所で行なわれた。座学の他に国連による3つの審査に参加することができた。1つ目はUPRのウガンダ、東ティモール、モルドバ審査で、2つ目はCEDAW(女性差別撤廃委員会)のオランダ審査、そして3つ目はCAT(拷問禁止委員会)によるエクアドル政府が提出した報告書の審査である。どの審査も興味深かったが、CEDAW審査が面白かった。それは、委員から厳しい質問がされ、入念な準備をしてきていることは間違いない中、オランダ政府が回答に窮する場面が何度かあった。委員の政府に対する批判的で鋭い質問は、彼女たちの専門性の高さによるものだけでなく、NGOの働きかけによって引き出された質問であることがわかったからである。このようにして市民社会の声が国連に届くことを目の当たりにして、とても嬉しくなった。

2、3週目は、国際人権やマイノリティの権利にも取り組む国連機関であるUNICEF(国際連合児童基金), UNDP(国連開発計画), UNWOMEN(ジェンダー平等と女性のエンパワーメントのための国連機関), UNESCO(国際連合教育科学文化機関), UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)と, EU(欧州連合), Permanent Mission of Canada in Geneva(在ジュネーブ国際機関カナダ政府代表部)と会い、マイノリティの権利に関してどのように取り組んでいるか、それぞれの機関から詳しくお話をしていただいた。カナダ代表部でのセッションでは、ブラジルとケニア、タイの国連ジュネーブ代表部も参加してくださり、自国のマイノリティ問題に関してざっくばらんにお話をしてくださった。カナダ、ブラジル、ケニアはこのマイノリティフェローシップ・プログラムの最大の支援者であることから、私たちそれぞれの国が抱えるマイノリティの問題に真摯に耳を傾けると同時に、このプログラムの持続性や拡大の可能性についての要望にも好意的な返事をしてくださった。

座学と実践がバランスよく組み込まれたプログラムをこなす中、12人のフェローが主体となって行なうプログラムも用意されていた。コーヒー・ブリーフィング・セッションと呼ばれ、OHCHRの職員や国連関連機関の人びとを招き、それぞれの国のマイノリティ問題をマイノリティである私たちが伝える場である。私たちは民族/伝統衣装を着て劇を演じた。1時間の劇のために毎日遅くまで練習した。当日は予想以上の出来に私たち自身が驚いた。なぜなら、「毎日遅くまで練習した」ことは事実だが、全員が集まったことはほんの数回で、数人だけで話し合う日もあれば、フェイスブックに夢中でコーヒー・ブリーフィング・セッションの内容にまったく興味がない、全てのアイデアに反対して一向に内容が決まらないなど、先が思いやられるなか当日を迎えたからである。とは言え、コーヒー・ブリーフィング・セッションは無事に終わり、毎日の朝練ならぬ夜練から解放されたことに皆ほっとした。

このプログラムの目的は最初にも書いた通り、国際人権とマイノリティの権利に取り組む国連のシステムや仕組みを学ぶことであるが、11月24、25日の少数者問題に関するフォーラム(Forum on Minority Issues)に参加し、テーマに沿った自国のマイノリティの状況を口頭声明で読み上げ、各国の政府代表に伝えることでもあった。毎年テーマ別に2日間の討議が行なわれ、今年のテーマは「人道危機的状況におけるマイノリティ」であったため、私は熊本地震の時の在日コリアンに対するヘイトデマを取り上げた。このフォーラムでは、当日受付を済ませればNGOの発言が認められるため、2日間でたくさんのNGOが口頭声明を読み上げた。

政府と市民社会の対話の場なのでNGOの発言が許されているにも関わらず、自国に不利な問題を取り上げられると、政府は「ポイント・オブ・オーダー」といって、NGOの発言を止めることができる。モンゴルのNGOが中国政府を批判するような内容を取り上げると、中国は即座に「ポイント・オブ・オーダー」でモンゴルのNGOを批判した。シリアやキューバなどの「親中」国が中国を擁護した。このままではモンゴルのNGOが発言できなくなると心配した矢先、オーストリアが(モンゴルの)NGOを擁護する立場を表明した。オランダ、イギリス、アメリカ、カナダなどがオーストリアに続きNGOを擁護した。モンゴルのNGOをサポートした政府に拍手を送りながら、それぞれのマイノリティが抱える問題を解決するために、世界のマイノリティとどう連帯していけるかと、考えをめぐらせた。

 

このプログラムは私にとって、とても貴重な経験になった。なぜなら、普段は自分が扱うマイノリティ問題に取り組む事で精一杯の中、他のマイノリティが抱える問題を知り、共に考える良い機会であったからだ。同時に、マイノリティ問題に取り組むたくさんの国連職員やEUなどの関係者とネットワーキングもできた。

 

この場を借りて、このような素晴らしい機会を与えてくださったOHCHR、プログラムのコーディネーターであるOHCHR職員のフローレス・モース、その他OHCHR職員、関連機関の人びとに感謝の意を表したい。