人種差別撤廃のために手をつなぐ国連と市民社会

小松 泰介(こまつたいすけ)

事務局次長 ジュネーブ事務所

 

2016年11月23日、世界中で未だに人種差別が蔓延し、国によっては増大している現状に対し、どのように先住民族やマイノリティ、NGOなどといった市民社会との協力を強化することができるのか議論するため、「人種差別根絶のために手を携えよう」と題したコンサルテーションが国連人種差別撤廃委員会(以下、委員会またはCERD)によってジュネーブの欧州国連本部で開催された。このコンサルテーションの企画および運営を行なう作業部会の一員として、長年委員会と活動してきたIMADRとロンドンを拠点とする国際NGOである「マイノリティ・ライツ・グループ(MRG)」が参加した。作業部会での話し合いの結果、コンサルテーションが世界における人種差別の現状を反映した建設的なものになるように委員会から市民社会全体に次の事前質問を送ることが決定した。

 

「①今日におけるあなたの国または地域での主要な人種差別問題と挑戦はなんですか?また、あなたはそれらに対しどのような活動をしていますか」、「②市民社会として委員会へ参加したこれまでの経験はどのようなものですか」、「③現場でより大きな効果をもたらすために委員会はどのように人種差別に対する活動と市民社会との協力を改善および強化できますか」。これらの質問は10月下旬に配布され、IMADRも拡散に協力するためにこれまで委員会の審査に参加した300以上の団体に送った。これに対しアジア、アフリカ、ヨーロッパ、南北アメリカの50以上の団体から回答があった。

 

コンサルテーション当日はパネル・ディスカッション形式で行なわれ、議長であるクリックリー委員の司会の下、市民社会からの代表がそれぞれの経験の共有と委員会への提言をした。代表にはIMADRとMRGに加え、ラテン・アメリカを中心に活動する「人種と平等」、ヨーロッパを中心に活動する「人種主義に対抗する欧州ネットワーク」の2つのNGOが招待された。筆者はIMADRの代表として5分間の発言をし、人種差別の問題は国連でも見逃されがちなため、これに特化した委員会は先住民族やマイノリティにとって重要な意味を持つことをまず強調した。その上で、今まで委員会審査に参加したことのある途上国のNGOに対して2015年に実施したアンケートを紹介し、何がNGOにとって審査参加のハードルとなったのかを共有した。これには言葉の壁をはじめ、限られた財政や人的資源、必要な情報へアクセスすることの難しさ、抑圧的な国内の環境、さらに審査プロセスを理解することの難しさといったものだった。IMADRが発行した市民社会向けのICERD・CERDガイドブックについても回答したNGOの3割ほどしか知らなかったことから、これまでジュネーブで委員会と長年活動してきたIMADRとしても、より国内の市民社会が委員会審査に参加しやすくなるサポートをする必要があることを筆者は強調した。

 

コンサルテーションには世界中から200人以上の市民社会の代表が参加し、パネリストの発言に続いてそれぞれが直面する困難の共有と委員会への提案を行なった。各代表の発言を通し、構造的人種差別、差別禁止法や国内人権機関などの保護・救済措置の不在、差別の実態把握のための統計不足、政府による委員会勧告の不十分な実施といった共通の課題が浮き彫りになった。また、参加者から繰り返し挙げられた問題が、活動資金を確保することの難しさと国内で活動する市民社会にとって委員会は遠い存在であることだった。口々にこの二つの問題に対する声を直に聞いて、資金的支援を提供することは現時点で難しくても、ジュネーブで委員会と一番近い距離で活動しているIMADRとして、委員会の審査に参加する先住民族やマイノリティ、NGOの代表が時間と資源を十分に活用できるようサポートすることの必要性を実感させられた。このコンサルテーションの内容を反映し、これからもっと点と点を繋げるような連帯運動をジュネーブから進めていきたい。