コンゴの紛争資源問題からとらえるビジネスと人権─映画『女を修理する男』の上映と講演会

金 智子(きむじじゃ)

IMADR プログラム・コーディネーター

 

国際平和デーの9月21日、コンゴの紛争下における性暴力、紛争鉱物とグローバル経済―ドキュメンタリー映画『女を修理する男』 (原題:THE MAN WHO MENDS WOMEN)の上映会、「コンゴの紛争資源問題からとらえるビジネスと人権」講演会に参加した(主催、「社会構想マネジメントを先導するグローバルリーダー養成プログラム」(GSDM))。その概要を報告する。

 

 

コンゴの紛争

 コンゴ民主共和国(Democratic Republic of the Congo/以下コンゴ)はアフリカ大陸中央部に位置し、サハラ砂漠以南で最大の国土を有する。周辺国を含めた紛争は15年以上に渡り、犠牲者は540万人以上と言われている。コンゴは100年以上にわたりベルギーに植民地支配され、植民地支配後の1960年にコンゴの独立が突然認められたため、国が混乱状況に陥り、軍人であったモブツ・セセ・セコが政権を握った。1994年、隣国のルワンダでジェノサイド(大虐殺)が起こり、ツチ族を含む約100万人が犠牲となる中、加害者であった多くのフツ族がコンゴ東部(旧ザイール)に逃れた。このことが1996-1997年の第一次コンゴ紛争を引き起こした。さらに1998-2002年には第二次コンゴ紛争がおこり、チャド、スーダン、ジンバブエなど17の周辺国が介入し、第一次アフリカ大戦と呼ばれている。その後、国連平和維持軍の派遣もあり公式には2003年に紛争は終結している。しかし、コンゴ東部ではいまなお反乱グループなどを含む武装勢力が活動している。

 

 

デニ・ムクエゲ氏の活動

 これらの紛争で約600万人が犠牲になり、大規模な性暴力によって多くの女性や少女が犠牲になり、今も性暴力被害に苦しむ人びとが大勢いる。コンゴ人の婦人科医で人権活動家のデニ・ムクエゲ氏は、コンゴ東部で性暴力のサバイバーを治療し、精神的ケアもしている。日本ではほぼ無名のムクウェゲ氏だが、1998年、コンゴ東部のブカブに病院を設立して4万人以上の性暴力のサバイバーを治療し続け、同地域では性暴力加害者が処罰されないことから、サバイバーのために法律相談所を開設、コンゴ東部における鉱物紛争に関わる軍や反政府勢力が性暴力の加害者であることを国連や世界で非難したことから、それらの活動が国際的に高く評価されている。2008年には国連人権賞、2014年にヒラリー・クリントン賞とサハロフ賞など数々の賞を受賞し、ノーベル平和賞の有力候補者にもなっている。

 

 

ドキュメンタリー映画『女を修理する男』(原題:THE MAN WHO MENDS WOMEN)

優しい目、柔らかい声を持つ長身の男性、ムクウェゲ氏は牧師の子として育ち、幼い頃に牧師である父親が貧しい人に祈りをささげるのを見て、決意した。「祈りでは何も解決できない。だから私は医者になる」と。現代の医療倫理の根幹を成す患者の生命・健康保護の思想、専門家としての尊厳の保持などを謳うヒポクラテスの誓いの精神に導かれ、性暴力のサバイバーである女性を救うことに献身する不屈の産婦人科医である。

国連人口基金の報告書によれば、1996年にコンゴで紛争が起こってから約20万人以上の女性・少女が性暴力を受けた。月に1100人、1日では36人が被害にあっている。コンゴ東部での性暴力の被害者は、2か月の赤ちゃんから80歳にまでにおよぶ。ブカブのパンジ病院に治療を求めてくる被害者は後を絶たない。今もなお続く性暴力は性欲に基づくものではなく、紛争手段の一つだとムクウェゲ氏は語る。ある少女は、家族の見ている前でレイプされ、母親も家族の前でレイプされたうえ性器を銃で撃たれたと、性暴力被害者の心のケアをする会合で語った。

なぜこんなにも性暴力が蔓延しているのか。それは武装勢力が鉱物資源争いに勝つための手段にもなるからである。コンゴ東部はスマートフォンにも使われているタンタル(希少金属)や金、銀などの鉱物が豊富に採れる。武装勢力は鉱物資源をめぐり、お金のかからない性暴力という手段によって女性やその家族を肉体的・精神的に傷つけコミュニティを弱体化させ、地域から強制移動させる。このような卑劣な行為が処罰されてこなかったことも性暴力が蔓延する原因にもなった。ムクウェゲ氏は、国連総会や世界各地でコンゴ東部の性暴力の実態を訴えている。その活動は命がけで、一度はスピーチをやめるよう自国の保健大臣から脅され、自宅に戻った時には活動をやめるよう、武装集団に襲われるが一命をとりとめた。これらの脅威から家族と自身の身を守るため亡命するが、地元の女性たちから帰国を熱望され2013年にコンゴに戻り、今もコンゴで活動を続けている。

 

 

「コンゴの紛争資源問題からとらえるビジネスと人権」講演会

 

 映画上映後の講演会は、「コンゴの紛争資源問題と日本の取り組み」と題して、アジア太平洋資料センターの田中滋氏、電子情報技術産業協会(JEITA)の山崎昌宏氏、京セラSCMリスク管理課責任者の上田肇氏が登壇し、紛争鉱物の規制の難しさと、紛争鉱物を使わないための取り組みについて述べた。

 

紛争鉱物を規制する流れは、2010年成立のドット・フランク法によって米国株式に上場している企業に対し、コンゴの紛争鉱物を使用していないかを調査・報告することを義務付け強化された。しかし、実行力に乏しいという。それは、自社製品に紛争鉱物が使用されているかを突き止めることが容易ではないからだ。なぜなら鉱物資源におけるサプライチェーンはグローバル化し、資源の出所を突き止めることは困難だからである。その意味ではドット・フランク法が十分に機能しているとは言えないが、日本の企業も努力をしているという。例えばサプライヤーを追いかけ、多くの時間を費やす調査・報告を効率化するため、紛争鉱物かどうかを調査・報告するアセスメントシートの統一化を図るなど、紛争鉱物を買わないことによって、紛争に加担しない努力をしている。