松岡 秀紀(まつおかひでき)
アジア・太平洋人権情報センター特任研究員
はじめに
2015年9月に国連持続可能な開発サミットで「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」が全会一致で採択され、その中で「持続可能な開発目標」(SDGs)が掲げられてから1年以上が経過した。
この間、日本でも、2016年5月に政府が「持続可能な開発目標(SDGs)推進本部」を設置、9月にはSDGs実施指針の策定に向けた円卓会議が開催された。NGOや企業でもSDGsに関連する動きが数多く出てきている。ようやく広がりを見せてきているSDGsについて、改めて「企業と人権」の視点から考えてみたい。
「2030アジェンダ」を読もう
SDGsでは貧困、飢餓、保健、教育、ジェンダー、労働、水、エネルギー、気候変動など多岐にわたる課題が、17の目標と169の具体的なターゲットとして掲げられている。「ミレニアム開発目標」(MDGs)を継承するとともに、2012年の国連持続可能な開発会議(リオ+20)で課題とされた環境面での持続可能な目標を統合して策定されたものだ。
カラフルなロゴマークとともに、SDGsの認知度はかなり高くなってきているかもしれない。しかし、上記のように、SDGsは、「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」の90のパラグラフのうちの、あえて言えば一つにすぎない。
「2030アジェンダ」の冒頭では、途上国だけでなく先進国も含めた世界全体の目標・ターゲットであることや、よく言及される「誰一人取り残さない」ために、最も遅れているところを最優先で取り組むことが宣言されている。どれもSDGsの目標全体にも関わる極めて重要な原則である。
「人権」はSDGs実施の共通原則
これは人権についても同様で、人権の尊重はすべての目標とターゲットの前提になっていると言える。「2030アジェンダ」の冒頭では、世界人権宣言などへの言及も見られる。―「新アジェンダは、国際法の尊重を含め、国連憲章の目的と原則によって導かれる。世界人権宣言、国際人権諸条約、ミレニアム宣言及び2005年サミット成果文書にも基礎を置く」(パラグラフ10、外務省仮訳)。
企業との関連でも、「2030アジェンダ」には重要な指摘がある。―「民間セクターに対し、持続可能な開発における課題解決のための創造性とイノベーションを発揮することを求める。『ビジネスと人権に関する指導原則と国際労働機関の労働基準』、『児童の権利条約』及び主要な多国間環境関連協定等の締約国において、これらの取り決めに従い労働者の権利や環境、保健基準を遵守しつつ、ダイナミックかつ十分に機能する民間セクター活動を促進する」(パラグラフ67、外務省仮訳)。
SDGsの目標とターゲットに含まれるさまざまな社会課題には、企業の事業活動に関連するものも多い。事業活動それ自体に軸足をおき、バリューチェーン全体に目を配りながら、創造性とイノベーションにつながるプラスの影響とともに、人権侵害や環境破壊といった事業活動が及ぼすマイナスの影響も考慮して、企業は基本的な社会的責任を果たす必要がある。「ビジネスと人権に関する指導原則」への言及は、そのことの重要性を指し示している。
気候変動の影響は身近にも迫り、人が生きることへの影響も深刻さを増している。SDGsのめざす包摂ではなく、逆に排除に向かっているようにみえる社会状況も見過ごすことはできない。持続可能とは言えない厳しい現実のもとで、だからこそ、企業の果たすべき役割も限りなく大きい。