特集:グローバル時代におけるビジネスと人権

参加者の声:質問から見る

髙橋さんと菅原さんの講演に関して会場から多くの質問がでました。その一部を要約して紹介します。

 

Q:世界の建設業の中で人権の取り組みが進んでいる会社や事例をおしえてください。

髙橋:資材調達のサプライチェーンから、デンマークの会社の事例を紹介します。この会社は材木をアフリカの奥地から調達するときに、そこに住んでいる人びとと協力して、聖なる木を切らないで伐採をしました。どれが聖なる木なのかは地域の人びとしか分からないため、それにマークをつけてもらい、GPSのようなハイテクを使ってそれを避けて伐採しました。建設現場では人権侵害のケースがよく報告されます。メガスポーツイベントを控えたカタールでは南アジアからの労働者が多数働いていますが、酷い扱いを受けています。日本もオリンピックを控えていて、労働力不足に対して技能実習制度が使われれば、そうした問題が今後起きるかもしれません。注目していく必要があります。

 

QNGOからの質問への回答の速さを外国投資家は注目しているか?

髙橋:通常は1週間以内で回答するようお願いしていますが、あと1週間延ばしてほしいなどの要望は日本だけではなく外国の企業からもあります。その程度は柔軟に対応しています。1本のレポートの中に複数の企業が列挙されている場合もあります。以前、そのような時に日本の企業だけが遅れていてしばらく待ちましたが、結局間に合わず日本からの回答はないまま公表しました。

 

Q:現在中国でG20が開かれていますが、人権問題は取り上げるのでしょうか?

髙橋:G20やG7は国連主催の会議とは目的が違います。これら会議へのNGOの参加は多少遅れています。今年5月のG7伊勢志摩サミットでは、昨年のエルモアサミットでしっかりと議論され、宣言まで出された責任あるサプライチェーンについて、国内のNGOが日本政府にビジネスと人権について討議してほしいと申し入れましたが聞き入れてもらえませんでした。G7やG20は、残念ながら市民社会の意向が反映されにくいシステムになっています。

 

Q:ユニリーバ以外のグローバル企業で好事例はありますか?

菅原:ユニリーバはべトナムでよいことをしていますが、インドで関わっている茶畑では人権侵害が起きています。どこの会社も悩みながら取り組んでいますが、それが見えるのがユニリーバです。ヒューレットパッカードやAppleも批判を受けてきましたが、情報開示をしながらNGOと協力して問題への取り組みを見えるようにしています。それが重要です。

 

QSDGs(持続可能な開発目標)の目標と人権の関わりはどのようなものですか?

菅原:SDGs の17の目標はすべて人権と関係しています。目標に向けて企業が積極的な役割を果たすことに焦点があたっていますが、人権侵害をしないという責任も非常に重要です。

 

Q:国際的な枠組みとしてグローバルコンパクトやISO26000もあります。現在両者が果たしている役割は?

菅原:企業の責任(人権侵害をしない)と役割(人権促進)の二つをカバーしているのはグローバルコンパクト(GC)です。ISO26000は完全な慈善行為は除外しているので、責任と役割全体の80%くらいをカバーしています。一方、国連指導原則は責任(侵害しない)だけに焦点を当てています。

髙橋:GC、ISO26000、それにOECDガイドラインと、どれもそれぞれ重要な役割を果たしています。そしてこれらを国際人権基準につなげたものが国連指導原則、ラギー原則です。企業によるこれらの加入や取得も重要ですが、それ以上に重要なことは結果です。自社の活動がどのような効果を人権に与えているのか、現場で何が起きているのかです。よく、「○○国に初めて行くけれど、人権のチェックリストはありますか」と聞かれます。残念ながらそのようなものはありません。仮にチェックリストがあったとしても、すべてチェックできたら万全なのか。そうではありません。人権に○×はつけにくいし、正解はないのです。むしろ、人権の視点で見れば見るほど、いろんな問題が表面化してきます。重要なことは人権のために頑張っていてその姿勢を見せることです。人権において完璧な国も企業もありません。

 

参加者の声:アンケートから見る

参加者450人中、268人の方々がアンケートに協力してくださいました。セミナーの内容と当日資料についての感想を以下の通り、数字で示します。また、それぞれについてのコメントも多数いただいたのでその一部を紹介いたします。

Q:セミナーはどうでしたか? 択一式

とてもよかった(59)  よかった(141)

ふつう(55) あまりよくなかった(7)

よくなかった(1)  無回答(5) (計268)

Q:配布資料はどうでしたか?

とてもよかった(56)  よかった(141)

ふつう(58)  あまりよくなかった(6)

よくなかった(1)  無回答(6)  (計268)

Q:セミナーはどうでしたか?  

・企業は世界のどこの国でも人権を守ろうという話に賛同。グローバル化とは企業自らが積極的に開示していくことが大切であると学びました。人権を守ることは企業活動に大きな関わりがあることが分かりました。

・情報公開をしていない企業は人権に取り組んでいないと判断されるという厳しい意見が印象的でした。

・人権デューデリジェンスについて事例も豊富に取り入れていただき理解できました。NGOからの質問に答えないことは実践していないことと同じという説明に自社のことを言われているようで早期取り組みを痛感した。

・髙橋さんから日本企業の取り組み不足を率直にコメントいただいた。国内人権の取り組みにのみ力を注いできた日本企業の課題を指摘いただいた感じがする。

・菅原さんの話は「アジアの支店に勤める社員に対し、どういった切り口で人権啓発研修にしたらよいか」のヒントになった。

・話が難しすぎてよくわからなかった。一般人にも分かりやすくしてほしい。

・企業としてCSRより一歩進んだ人権への取り組みについてはたして当社は開示できるだけの取り組みをしているのか?問題が発生したとき、適正な対応ができるのか?人権への取り組みが数値化されるとすれば、その値は?世界の中で日本の企業はどれくらいの位置であるのか?などと考えながら興味深く聞かせていただきました。

・中国、タイに駐在時代に感じていたこともとりあげられていてわかりやすかった。

・大企業に焦点が置かれていたので、中小企業にとってのインパクトは少なかった。

資料はどうでしたか?

・セミナーを受けての一体のものとしてより理解できる。

・人権としての視野を広げさせてくれる。

・用語解説がためになる。

・「人を大切に」よくまとまっていて参考になる。

・CSRガイドブックの中の消費者と人権の項目が目新しく感じ、活用していきたい。

・英語が多く理解が出来ない。

・もう少しコンパクトな内容の方がベターである。