『ウルボ~泣き虫ボクシング部~』(原題:ウルボ울보 クォントゥブ권투부)

監督:イ・イルハ、製作:2015年/韓国/86分

公式HP:http://ulbo.exposedfilm.net/

 

ヘイトや無償化問題もあるけど、朝鮮高校生のさわやかな風を感じてほしい

朴 真樹 (ぱくちんす)

会社員・朝鮮高校生の母

 

学校のグラウンドをひたすら走り続け、気持ちがだれる絶妙のタイミングで顧問のサンス先生が現れ、ふたたび気を引き締め直し、黙々と走る。これが東京朝鮮高校ボクシング部の朝練の風景です。

午後の部活ではさらにハードな鍛錬が加わります。高1の新入生たちも、短期間でみるみる腕まわりが太くなっていきます。汗まみれのバンテージは時に血がにじみ、試合が近づいて減量がはじまると、しまいには水さえも制限して脂肪がそぎ落とされる…。

高校ボクシングは2分×3ラウンドの試合。「オンマ(お母さん)、たったの6分って思うでしょ?一回やってみ!もう最後は腕上がんないから」(苦笑)。

これは、私の息子の言葉です。息子は、映画『ウルボ』の主人公たちの2年下の後輩で、冒頭の朝練風景も、劇中場面ではなく息子から聞きました。

この春、朝鮮高校ボクシング部の姿を追いかけた韓国ドキュメンタリー映画『ウルボ~泣き虫ボクシング部~』が、日本で初上映されました。韓国では、「DMZ国際ドキュメンタリー映画祭」の開幕作品で注目され、「青少年のための優良映画(2015)」にも選ばれた作品ですが、日本では応援者の寄付とボランティアスタッフの協力で実現しました。ちなみにウルボとは朝鮮・韓国語で「泣き虫」のことです。

映画 『ウルボ』では、彼らの学生生活も映します。朝鮮高校には、境遇もさまざま、偏差値もバラバラの学生が集まります。日本の中学校から進学する学生もいます。

劇中で特に説明はありませんが、バスのなかで歌を唄わされるジヌと、卒業を控えた部活の引き継ぎ会で日本語で話すキョミョンは、日本の中学校から東京朝高に編入しました。彼らにとってどんな3年間だったのか、直接聞いてみたい気もします。

映画『ウルボ』上映会には、私の学生時代からの日本の友人を誘って行ってきました。たぶん、彼女にとって朝鮮学校は「未知との遭遇」。会場に観に来ていた朝鮮高校生たちにも興味津々の様子でした。

映画を楽しんだ友人は、劇中の「一度、朝高に遊びに来てください」というサンス先生の言葉をうけて、後日、東京朝高の文化祭に遊びに来てくれました。「えっ、あのグラウンドで、サッカー部とラグビー部がいっしょに練習してるの?」「しかも、中学と高校それぞれの部活があるでしょう?」「それでラグビー、花園(高校ラグビー全国大会)行ったの?」と、グラウンドの小ささに驚いていましたけど(笑)。

確かにヘイトデモや、高校無償化適用問題など、いま在日朝鮮・韓国人とその子どもたちを取り囲む状況は、決して楽しいことばかりではないけれど、映画『ウルボ』を観て、彼らのさわやかな風を感じてもらえると嬉しいです。そして、ぜひ一度、朝鮮高校にも遊びに来てください。