加納 恵子(かのうけいこ)
DPI女性障害者ネットワーク、関西大学教授
「DPI女性障害者ネットワーク」(以下DPI女性ネット)は、1986年に障害女性の自立促進と優生保護法の撤廃を目指して運動を開始し、現在では障害女性に関する法律や制度、施策のあり方をめぐる国内外の課題に幅広く取り組み情報発信をしている。
私たちは、昨年7月の予備審査に2名を派遣し、IMADRの適切なサポートのおかげもあって初めてのロビー活動に一定の成果を収め、2月の本審査に臨んだ。主な訴えのポイントとその成果としての委員の発言や質問を次の4項目にまとめた。
1.障害女性の参画
障害者政策にかかわる委員は過半数を障害当事者及び関係者とした上で、障害者の少なくとも3割は女性とすること、同様に女性政策に関わる委員にも障害女性の適正な参画をと訴えた。➡委員からは「現在の障害者政策委員に障害女性2名は少なすぎる、公的職ポストに何人ついているのか」との指摘があった。
2.ジェンダー統計の整備
障害女性の実態を分析し政策に反映させていくためには、根拠となる障害者基礎調査の枠組みにジェンダー統計を盛り込むことが不可欠である。特に遅れている雇用分野をはじめ、教育、健康、暴力などすべての領域に実証データが求められている。➡少なくとも4名の委員から、ジェンダー統計の重要性と整備計画についての強い要望が出され、雇用・教育への積極的差別是正策への政府の意欲が問われた。
3.あらゆるサービスへのアクセス保障
障害女性が非障害女性と同等に地域生活を実現していくためには、例えば医療や生活場面での同性介助、妊娠・出産・子育てに関する合理的配慮といった性別に配慮したサービスの提供が必要である。いまだに結婚差別の事例や出産に際して医師や親から中絶を強要される事例が後を絶たない。➡委員からは特に産科医療、性教育の必要性について言及された。
4.障害女性への性的被害・暴力・虐待への対策
私たちの複合差別実態調査(2012)では、35%の障害女性が性的被害を被っているというショッキングな結果が出た。職場で上司から、学校で教師から、福祉施設で介助者から、家庭内で親族から・・・、その密室性と上下の力関係が被害の声さえ封じている。DV相談窓口やシェルターも障害女性の利用を想定していない。関係機関と担当職員への人権啓発研修を求めた。➡委員からは、深刻な暴力被害の指摘と職員研修はされているかを問われた。
派遣メンバーは、おそろいのTシャツで士気を高め、自らのつらい経験を開陳しつつ、準備資料を解説した。私たちの草の根の声は、NGOブリーフィングの会場で、あるいはカフェで、各国の委員に届き彼/女らの心を動かしたと信じる。
しかしながら、喜んでばかりもいられない。今後、よりいっそう障害女性の「複合差別」実態を可視化する必要がある。複合差別は、差別の「足し算」ではなく「掛け算」的に、その差別解消の手段、方法、プロセスを複雑化する。このやっかいなメカニズムを実証的に解明し対策提言していくには、マイノリティ女性運動との連帯が不可欠であろう。
また今回リプロダクティブ・ヘルス&ライツに関しては、現状認識に隔たりを感じた。CEDAWは、女性の中絶の権利を擁護する「選択賛成派(pro-choice)」ではあるが、残念ながら「反優生思想(anti-eugenic)」への理解は不十分だ。障害胎児の中絶合法化を求める質問も出た。DPI女性ネットは、女性の権利とともに選別される命のアドボケーター(権利擁護者)として「選択賛成」と「反優生思想」を同時に訴えていかなければならない。一方で、「SOSHIREN・女(わたし)のからだから」とともに訴えた「過去の強制不妊手術への謝罪と補償」には、多くの委員の理解が得られた。一歩前進である。今後もDPI女性ネットは他団体と協力して粘り強く反差別運動に取り組んでいきたいと思う。