在日コリアン女性の声を女性差別撤廃委員会委員に届けて

李 月順  (りうぉるすん)

アプロ・未来を創造する在日コリアン女性ネットワーク代表

 

国連の女性差別撤廃委員会日本審査に合わせて、アプロのメンバー3名がジュネーブに行き、日本審査を担当する委員への働きかけ(ロビーイング)を行なった。初めての経験で戸惑うことも多かったが、これまで共に協働してきたアイヌ女性や部落女性とともにIMADRをはじめ多くのサポートに支えられた。日本審査前日に行われたCEDAWの委員への日本のNGOとしてのブリーフィングは、直接在日コリアン女性の問題を訴え、直接的な働きかけができる最初の貴重な機会だった。割り当てられた時間は短かったが、在日コリアン女性が直面する問題を発言できる機会であり、中身の濃い時間だった。なにより発言を聴いている委員の方たちの真摯な姿に勇気づけられた。終了後、自分たちが提出したレポートとアプロが作成した英文チラシ(活動や問題をまとめたA4一枚)を手に委員に話しかけ、先ずは関心を持ってもらうための働きかけをした。英語の未熟さを必死さで補った感がある。会議の合間を縫って委員への働きかけを行なう中で、どのように自分たちの問題を伝えるかといったことも考えた。短い時間で在日コリアン女性の問題に関心を持ってもらい、課題を簡潔に理解してもらうためには、その客観的なデータが必要であることを再認識した。

 

在日コリアン女性は、日本の旧植民地出身者およびその子孫であるが、日本社会で見えない存在として不可視化されてきた。不可視化されたまま、政治にアクセスする権利(選挙権)をいまだ持たない在日コリアン女性の声が届くことはなく、課題に即した政策の必要性が論議されることはなかった。在日コリアン女性がマイノリティ女性として存在すること、民族差別と女性差別という複合した差別の中で生きてこざるをえなかった在日コリアン女性の問題を、日本政府への質問という形で委員に発言してもらうことの重要性を実感した。

 

何人もの委員の質問の中に在日コリアン女性の問題に言及した発言があった。その質問は、在日コリアン女性の統計データの欠如、ヘイトスピーチ等に関する包括的な反差別法の導入、朝鮮学校の補助金の再導入や奨学金の適用、ヘルスサービスの情報の提供など、多肢にわたっていた。マイノリティ女性の実態調査の実施については、これまでの勧告でもすでに指摘されていたが、在日コリアン女性は「国勢調査でデータがとれる」という日本政府の答弁は、実態調査がなぜ必要であるかといった基本的な認識が全く欠如しているものだった。在日コリアン女性の問題を政策課題として明らかにするための実態調査の必要性を認識していない答弁だった。それは、委員の質問にあった「差別の定義」に基づいた国内法がいまだ欠如していることに対する日本政府の答弁にも通じるものであった。

 

現在、アプロでは、『第2回在日コリアン女性実態調査』に取り組んでいる。この調査の目的は、当事者の立場から、在日コリアン女性の生きにくさについて調査し、在日コリアン女性の権利向上のための客観的データとして調査結果を活用することにある。在日コリアン女性が生きやすい社会とは、多様なマイノリティ女性にとっても人間としての尊厳が保障される社会である。アプロの活動は、その社会の実現に向けて寄与する一歩となるだろう。今回、ジュネーブでの活動に際し、多くの方のサポートがなければ在日コリアン女性の声を委員に届けることはできなかった。JNNC、IMADRをはじめ、サポートしていただいた方々に感謝の意を表したい。