『グローリー 明日への行進』(英原題:Selma)

監督:エヴァ・デュヴァネイ

ギャガ株式会社配給、2014年11月

金智子(きむじじゃ)

 

セルマというのはアメリカ南部にある黒人の多く住む町で、そこで51年前の1965年に「血の日曜日事件」が起こった。その政治闘争のリーダーだったのが1964年にノーベル平和賞を受賞したマーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師である。キング牧師は300年以上続いたアメリカにおける黒人の不平等と闘った人でもある。アメリカの奴隷制度は南北戦争によって1865年に終結し、この勝利が黒人に平等をもたらすと信じた人も多かったのではないかと思う。

しかし実際には何世紀にもわたる奴隷制度によって、黒人への社会的差別は簡単にはなくならなかった彼(女)らは奴隷制度から解放されたものの、人種隔離という別の形で人権侵害を受け続けてきた。公民権法によって人種隔離がなくなった次は、100年ものあいだ1965年まで黒人の人びとは投票権を実質的に奪われてきた。

映画の冒頭で黒人女性が選挙人登録に行くシーンがある。彼女は白人登録官の質問に正確に答えていくが、黒人であるがゆえに間違えるまで難しい質問を繰り返される。その結果、試験に合格できず、その黒人女性は選挙人登録ができないため、投票の権利を得られない。

投票権法を成立させるため、人種隔離政策を撤廃する公民権法制定に大きく貢献したキング牧師が非暴力による闘争を始める。非暴力の闘争とは、例えば黒人席と白人席が用意されているバスに乗らないといった抵抗運動や、白人と同じ場所で教育を受ける権利を主張するデモ行進である。それらの抵抗運動の後、選挙権を求める群衆はセルマの橋を渡るが、馬に乗った警官隊がそのデモの群衆にありとあらゆる方法で暴力を加えていく。

非暴力に対する容赦ない暴力の数々は、過去に起こった出来事というよりもむしろ、近年増加している治安維持の名の下で繰り返される米警官による黒人殺人事件やヘイトスピーチを思い出させる。

しかしながら、キング牧師は非暴力の抵抗を無力と捉えるのではなく最大の武器として活用し、黒人の人権向上に大きく貢献した。黒人の人としての尊厳を守ることに人生を捧げ最後は暗殺されてしまうが、どんな卑劣な暴力に対しても非暴力の姿勢を貫き通した姿に感動すると同時に、ひとりの平和活動家としてあらためて、非暴力こそが問題解決の糸口なのだと確信させられた。