審査で問われたこと

原 由利子(はらゆりこ)

反差別国際運動事務局長

 

「教育分野にプラスして日本の雇用分野におけるマイノリティ女性に関する持続的な複合差別について強調したい。(中略)日本は包括的な差別禁止法を制定する意思はあるか。……包括的な差別禁止法の文脈において、教育と雇用、すべての分野で複合差別に取り組んで欲しい」。審査でハイダー委員のこの質問に対する日本政府の回答はなく、委員はフォローアップ質問をした。「複合差別に取り組む包括的差別禁止法制定の意思について最も重要な質問に対する回答がなかったが、これは鍵である。法的枠組みがなければ政策は適切かつ一貫して実施できないからだ」。政府の回答に満足できない委員からのフォローアップ質問は続いた。マイノリティ女性の教育の向上について「一般的な政策が彼女らにも適用されると聞いたが、彼女たちの状況は特別なものなのでよりターゲットを絞った政策介入が必要だ。……朝鮮学校への補助金は再導入されているか」「政治的・公的機関への女性の参画が、人口の多様性を全面的に反映することをどのように確保しているのかという質問に回答していない」。このような度重なる委員からの質問は、具体的な回答を持ち合わせていない日本政府の今を際立たせた。だからこそ委員は憂慮し、法制定や「行動志向型の取り組みや特別措置」をとることを複数回にわたり推奨した。また、今国会に上程された人種差別撤廃のための法案の審議が今どういう状況にあるか、この機会にヘイトスピーチに対して取り組む予定があるか、と問うた。これら審査での委員の質問の刻銘な記録は、本紙P10-11にある通りである。障害のある女性に関する質問を含めると、22人の委員の半数以上が、マイノリティ女性に関して言及し、重要課題になったといえる。

次頁から続く7人の方の寄稿に表れている通り、一人ひとりの当事者の存在や思い、調査実施などこれまでの努力により課題が委員に伝わり、世界の女性の憲法に照らしてその主張が後押しされた。いわば女性たちの主張の正当性が、国際人権にてらして証明されたものといえる。また女性差別撤廃委員会が複合差別への理解を長年かけて発展させ、条約の解釈指針である一般勧告で、包括的差別禁止法の制定や暫定的特別措置などの対応を求めていることが大きい。

委員会から日本政府へ送られる総括所見にはそれが数々の勧告となってあらわれる(3月4日採択、総括所見の全文は、IMADRのウェブサイト参照)。国連からの勧告を跳躍台にして、多様なマイノリティ女性の声が国内でこそ轟き、実現されていくよう3月28日には衆議院第一議員会館で院内集会を開催し、各地でも報告や集会が続く。この通信や集会など、女性たちとの出会いを通して理解を深める人が増え、共感した人たちが共に声をあげていくことで、変化の波が広がっていくことを願っている。