今進む外国人労働者受け入れ―外国人技能実習制度が私たちに与える影響

講師:鳥井一平(全統一労働組合副委員長、移住者と連携する全国ネットワーク代表理事)

 

日本における外国人のカテゴリーは、「オールドカマー」と呼ばれる旧植民地出身者とその子孫、そして「ニューカマー」と呼ばれる80年代以降に日本に移住した人びとに二分される。

また、移住労働者は、次の5つに分類できる。(1)教師や専門技術者、通訳など就労できる在留資格を持った労働者、(2)日系労働者(主にブラジル、ペルーから)およびその配偶者、永住者、(3)非正規滞在者、資格外労働者(オーバーステイ)、(4)技能実習生(5)家事労働者、エンターテイナーなど。そのうち、今回は(4)技能実習生を中心に問題を掘り下げていきたい。

厚生労働省のウェブサイトには技能実習制度の目的が次のように記されている。『技能実習制度は、我が国が先進国としての役割を果たしつつ国際社会との調和ある発展を図っていくため、技能、技術又は知識の開発途上国等への移転を図り、開発途上国等の経済発展を担う「人づくり」に協力することを目的としております。』

2014年6月現在、技能実習生の総数は162,154人で中国からが65%(105,382人)、ベトナムからが16%(26,398人)、フィリピンとインドネシアからそれぞれ7%と続く。この技能実習制度の現実はどうかを見ていきたい。

2020年東京でのオリンピック、パラリンピックの開催決定と同時に、メディアが一斉に人口減少社会における「人手不足」を報道し、外国人労働者の受入れ論議が高まった。しかし、人口減少社会はずっと前からわかっていたことである。人手不足に関しては1980年代のバブル期においてはオーバーステイの容認、1990年代には日系ビザ(定住者)創設、そして1993年の外国人技能実習制度の創設と、その場しのぎながらも外国人労働者の受け入れは進められてきた。

2008年には国立国会図書館の「人口減少社会の外国人問題」という総合調査報告書や、自民党の「人材開国!日本型移民国家への道 世界の若者が移住したいと憧れる国の構築に向けて」、「『外国人労働者短期就労制度』の創設の提言」など、いくつか新しい動きの芽生えが感じられたものの、リーマンショックや政権交代などの影響でとん挫し、現在に至っている。

2020年東京オリンピックや東日本大震災の復興などの要因のもと、受け入れ論議は2014年になって再び活発化し、2015年になっていくつかの方向性が示された。その1つは技能実習制度の見直しに関する法務省・厚生労働省合同有識者懇談会報告書、2つめは外国人介護人材受入れの在り方に関する検討会中間まとめ、3つめは4月1日より開始された「外国人建設(造船)就労者受入れ事業」である。

ただし、現在の日本および入管法があくまで移民の受け入れを認めていないことがネックとなり、受け入れ議論の中心はあくまで「外国人(研修)・技能実習制度」となっている。

従来の「外国人研修制度」は最長1年、その上に乗っかる形の「技能実習制度」は最長2年であったが、これらをもとに2010年に在留資格「技能実習」が創設され、両者は一応分離した。

もともと「外国人研修制度」は「習得しようとする技術・技能等が、同一の作業の反復(単純作業)のみによって習得できるものではないもの」とされている。また「技能実習制度」は労基法上の「労働者」に該当し、労働関係諸法令が適用されるべき性格のものであるが、在留資格「技能実習」となった現在においても実態は全く異なる。

現実として家賃や光熱水道費から寝具、家具や調理器具のリースまで法外な「法定外控除」としてピンハネしたり、残業時給300円、移動の自由の制限、見せしめとしての強制帰国(本人には渡航費、「あっせん費」などの借金だけが残る)などが当たり前のように行なわれている。

そのため国連などから日本政府に数々の勧告が寄せられている。2009年に女性差別撤廃委員会が同制度に懸念を示したのに続き、国連人身売買に関する特別報告者や移住者に関する特別報告者は訪日調査を行ったうえで、それぞれ同制度の改革を求める踏み込んだ勧告をだした。また2014年の自由権規約委員会による総括所見では次のように勧告された。

・「制度改正にもかかわらず、同制度のもとで性的虐待、労働に関係する死亡、強制労働となりえる状況に関する報告がいまだに多く存在することを懸念とともに留意する」

・「低賃金労働者の雇用よりも能力開発に焦点を置く新しい制度に変えることを真剣に検討すべき」

・「事業場等立ち入り調査の回数を増やし、独立した苦情申し立ての制度を設置し、労働搾取の人身売買その他労働法違反事案を効果的に調査し、起訴し、制裁を科すべき」

外国人技能実習制度は、「実習生と送り出し機関との契約」「送り出し機関と受け入れ機関との契約」「受け入れ機関と雇用者との契約」「実習生と雇用者の契約」と、複雑な契約関係が存在している。そのため労働基準法、労働組合法、労働契約法(労働三法)が非常に機能しづらいのが現状である。

それに加えて、実習生は多額の「保証金」を地元斡旋業者に支払って来日し、何か問題をおこせば「保証金」が没収されるため、人権侵害があっても声をあげられない。声をあげれば、強制帰国させられる。このようながんじがらめの契約の下で労働者も使用者を選べる=移動の自由などの、労働契約の基本である「労使対等原則」がまったく機能しない。

そして技能実習制度と称しながら、実際は低賃金の労働力としての活用や、建設・造船分野では最長6年の雇用を可能としている。固定化した著しい支配従属関係の中で、善良なはずの経営者たちも、そのうまみにはまって変貌していっている。つまり、「使い捨ての魔力」、「ローテーション労働力の魔力」が本来善良な雇用者さえ蝕んでいる。

今、私たちが直面しているのは、オリンピック・パラリンピックと復興を口実にして、「使い捨て労働力」にまたもや外国人技能実習制度を「活用」させようとしていることである。民主主義社会のひとつの大きな柱は労使対等原則である。それを保証しない技能実習制度は存在してはならないし、使ってはならない。

現実に移住労働者の存在なくして人口減少の日本社会は成り立たない。今求められているのは技能実習生ではなく、労働者である。労働力政策ではなく労働者政策、移民政策である。私達の目指す新しい移民政策は移動の自由、企業選択の自由を保障し、定住を妨げない。つまり労使対等原則を担保することである。

すでに多民族・多文化共生社会は始まっている。職場だけではなく地域社会においても様々な民族、文化が時には摩擦しながらも共生を目指している。言語・宗教・文化の違い、認識差を前提にした労働者政策、移民政策が必要である。また移民を管理・監視の対象としてではなく、この社会に共に生きる働く仲間、地域の隣人として受け入れていかなければならない。すでに日本は移民の存在なくして成り立たない社会である。これからの社会は人身売買、奴隷労働と対決し、労使対等原則が担保された多民族・多文化共生社会でなければならない。