ユネスコ世界記憶遺事業について

栗原祐司(くりはら ゆうじ)

東京国立博物館総務部長

 

ユネスコ世界記憶遺産は、条約に基づかないこともあって、日本ではあまり知られておらず、6年前に日本で初めて「山本作兵衛コレクション」が登録されたのを機にようやく取り組みがはじまった。

 

世界記憶遺産とは何か。世界の重要な記憶遺産の保護と振興を目的に1992年に開始されたユネスコ情報・コミュニケーションセンターの事業であり、①世界的に重要な記憶遺産の保存を最もふさわしい技術を用いて促進すること、②重要な記憶遺産にできるだけ多くの人がアクセスできるようにすること、③ユネスコ加盟国における記憶遺産の存在及び重要性への認識を高めること、を目的としている。

 

記憶は一つの国の出来事よりも、複数の国の記憶として共有されているほうが望ましい。これまでも複数国提案はすべて登録されている。アジア域内の記憶遺産(MOWCAP)もあるが、日本は当該事業には参加しておらず、今後の課題である。

 

申請は地方公共団体でも法人でも個人でも可能だが、1国2件までの枠がある。2年に一度開催される国際諮問委員会で審査を行い、登録を決定するが、前回2014年は世界から299件申請され56件が登録された。アジアでは早くからとりくんだ韓国の登録数が一番多い。

 

では、どんなものがあるのか。ゲーテの直筆文学作品・日記・手紙(ドイツ)、アンデルセン・コレクション(デンマーク)、現存する世界最古のコーラン(ウズベキスタン)、リグヴェーダ(インド)、アンネの日記(オランダ)、オズの魔法使い(米国)。人権関係では、フランスの人権宣言、光州民主化運動の記録(韓国)、ワルシャワゲットーの文書(ポーランド)など、ユダヤ人収容に関するものも結構ある。

 

複数の国から構成されているものとしては、インド系契約労働者の記録(フィジーほか)、パナマ運河建設における西インド諸島の労働者の記録(パナマほか)、南米コロンビアの黒人奴隷の記録などがある。英国カリブ領の奴隷の記録(イギリス他)など、自ら奴隷制度をおこなった国も共同申請しているということは、これらの事実がひとつの歴史になっており、人びとの記憶としてしっかり継承されていることの証である。世界記憶遺産事業は、政治的主張の場ではないので、旧宗主国が反対していれば登録されることはない。複数の国が一緒になって申請し、共通の記憶として残す動きがあったということだ。一国でも単独で申請できるが、物語の作り方や資料の選択が重要なポイントとなる。

 

赤十字国際委員会の戦争捕虜のアーカイヴなどは、デジタル化されてアクセスが容易で、こうした点も登録への大事なポイントだ。世界文化遺産は歴史的に古い遺産が多いが、世界記憶遺産は近代のものも多いというのも特徴の一つだろう。

 

日本ではユネスコ国内委員会に選考委員会が設けられている。「水平社創立宣言」がめざす登録のスケジュールは、6月に国内公募締め切り、9月に申請物件を決定、翌年3月にユネスコに申請書を提出する。競争は厳しいが、おりしも2019年には世界博物館大会(ICOM)が京都で開催される。世界の博物館関係者に、これこそが世界記憶遺産だというかたちで示せるように頑張っていただきたい。

 

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