パリで差別反対のシンポジウムをIMADRが共催

小松泰介(こまつたいすけ)

IMADRジュネーブ事務所 国連アドボカシー担当

 

4月18日、IMADRはパートナー団体である「人種主義に反対し諸民族の友好をめざす運動(MRAP)」との共催で「過去および現在における差別」と題するシンポジウムをパリで開催した。IMADRからは二マルカ・フェルナンド理事長、カトリーヌ・カドゥ事務局次長および国連アドボカシー担当の小松泰介が出席した。ここではうち2名とIMADRのパートナー団体である「ドイツ・スィンティ・ロマ中央委員会」のヘルバート・ヘスさんによる発表内容を紹介する。

MRAPはナチス主義とファシズムに対する地下抵抗運動の「人種主義に反対する国内運動(MNCR)」というレジスタンス組織を前身とし、それが第二次世界大戦中の1942年に「反ユダヤ主義に反対する国際同盟(LICA)」に統合した。大戦後の1949年、LICAから「人種主義と反ユダヤ主義に反対する国際同盟(LICRA)」とMRAPに枝分かれすることとなった。現在MRAPは人種主義の撤廃を目指し、人種差別の被害者の法的支援、学校における反人種差別教育、難民および庇護希望者、移民、ロマやトラベラーズ[1]といった人びとの支援をフランス国内で行っている。

シンポジウムはカドゥ事務局次長の「部落民の闘争によるIMADRの起源」と題した発表で始められた。カドゥ事務局長は冒頭に水平社宣言をフランス語で読み上げ、背景となる部落民の社会的排除と差別について解説した。教科書無償化闘争や同和対策事業特別措置法実施の推進から、今も続く石川一雄さんの闘いや、雇用や婚姻における差別との闘いという部落解放運動の経緯をカドゥ事務局次長は続いて紹介した。運動の中でのインドのダリットやヨーロッパのロマといった世界で同じように差別に苦しむ人びととの出会いから差別に対抗する国際的運動としてIMADRが誕生したことが説明された。さらに日本政府が国連人種差別撤廃条約を批准するよう推進運動をおこしたことも思い起こされた。最後に、被差別コミュニティによる独自の人権宣言として、水平社宣言がユネスコ記憶遺産に登録されるよう目指す活動が武者小路副理事長をはじめ関係者によって進められていることが発表された。

続いて小松職員がテオ・ファン・ボーベン理事の発表を代理で行なった。国連人権理事会におけるスリランカや平和への権利をはじめとした取り組みや特別報告者との協力に加え、特に人種差別撤廃委員会(CERD)におけるIMADRの活動が強調された。IMADRは委員会の審査の様子をインターネットでビデオ中継を行っている他にもNGO向けCERD活用ガイドブックを出版している。昨年行なわれた日本審査では、国内のNGO間の調整役を担い日本政府への包括的かつ具体的なCERD勧告へと繋げたことが紹介された。

最後にヘルバート・ヘスさんがヨーロッパのシンティとロマの人びとの現状に関する報告を行った。

ヘスさんは今年、欧州議会が8月2日を「ロマ・ホロコースト記念日」とすると決定したことを歓迎しつつ、近年のヨーロッパにおけるナショナリズムの高まりによってロマの人びとの排除が進んでいることを懸念した。極右主義や反ユダヤ主義と比べても反ロマの風潮は著しく蔓延しているとし、最近の「反ジブシー」選挙キャンペーンについての申し立てで裁判所がヘイトスピーチと認めなかったことを紹介した。メディアにおけるヘイトスピーチについてスインテイ・ロマ中央委員会が毎年60~100件の苦情申し立てをした結果、現在はメディア諮問機関の一員として取り組めているが、インターネット上のヘイトスピーチは未だ野放しであるとした。

この後、パネリストと参加者は積極的に意見交換をし、過激主義が台頭する現在において、人種主義と人種差別撤廃のための運動を繋げていくためには若い世代の参加が不可欠であることが確認された。

 

 

[1]北インドに起源を持つロマとは異なり、西ヨーロッパに起源を持つ人びと。現在においては必ずしもすべてのトラベラーズが移動型の生活を送っているわけではない。