企業経営の基盤に人権の尊重を

山岡尚哉(やまおか なおや)

東京人権啓発企業連絡会理事長、IMADR-JC理事

 

東京人権啓発企業連絡会は、東京に本社を置く企業が主体に現在124社(従業員約100万人)で組織されている任意団体です。

 

1979年11月に東京同和問題企業連絡会(90年に人企連に名称変更)として発足して以来、「自主的運営と全員参加」の基本方針をもって、部落問題を基軸にさまざまな人権問題の解決に向けて取り組んでおります。

 

発足の原点は、1975年に発覚した差別図書「部落地名総鑑」事件であり、また、当時漫然と行われていた不公正・不適切な採用選考業務であったと捉えております。この事件を通して、私たち企業は、当時の企業の差別的体質というものに気づき、そして、社会的責任を自覚して、様々な社会的差別、人権問題の解決に向けて真正面から取り組むことを決意しました。

 

以来、私たちは、「人権尊重の企業文化の創造」をビジョンに掲げ、また同時に、行政関係機関や人権団体、市民団体の皆さまとも連携し、「人権尊重社会の確立」に向けて取り組みを進めてきているところであります。そして、今日の人権をめぐる国内外の潮流のなかで、私たちは今こそ、「人権の尊重を企業経営の基盤に据えなくてはならない」、「企業の社会的責任(CSR)を人権の尊重を基軸に進めなくてはならない」と考えております。即ち、今日、企業が人権に取り組むということは、全社的な研修啓発活動に留まらず、日常のすべての業務、一つ一つの仕事を「人権尊重の視点」で見直していくということ、また同時に、すべてのステークホルダーとの関係を「人権尊重の視点」で見直していくということだと思います。

 

さて一方、今日の社会の現状を見てみますと、今もなお、部落差別に繋がる土地差別調査事件や個人情報の不正取得事件など、様々な社会的差別や人権侵害事件が惹起され、またネット上でも差別情報が氾濫し、更には、露骨な差別扇動やヘイトスピーチが執拗に行なわれております。日々の暮らしの中でも、人の命や尊厳に関わる、いじめや虐待、DV、体罰、ハラスメントなどが多発している現実があります。このような社会の実態を直視するならば、私は今こそ、社会全体で、「人を大切にする社会づくり、すべての人の人権が真に尊重される社会づくり」に取り組まなくてはならないと思っております。特に、今日、大きな社会的影響力をもつ私たち企業が先頭に立って取り組みを進めることは「社会の要請」であると認識しております。

 

すでに、2000年には、国連ではグローバルコンパクトが提唱され、2010年にはISO26000が発行、続く2011年には、国連人権理事会において、「ビジネスと人権に関する指導原則」が採択されております。そこでは「企業は人権を尊重する責任がある」と明確に謳われ、まさに今日、「企業経営の基盤に人権の尊重を据えること」が、国際基準となっております。そして、今日のグローバル社会の進展の中で、多くの企業が世界市場でビジネスを展開しているところであり、今こそ、「国際人権基準」や「国際行動規範」の理解と実践が必要であり、IMADR-JCとの連携も益々重要になってきていると思っております。