保護者の立場から―国による一貫した朝鮮学校差別がヘイトスピーチを助長

宋恵淑(そん へすく)
在日本朝鮮人人権協会

 私は現在、子どもを朝鮮学校に通わせている保護者である。その立場から朝鮮学校差別の現状について簡単に述べさせていただきたい。
 「高校無償化」制度からの朝鮮学校排除という日本政府主導による露骨な差別(P1参照)は、大阪府や宮城県などの地方自治体による朝鮮学校への補助金交付停止または削減という新たな差別を生み出している。朝鮮学校に対しては国庫からの補助金はその設立以来一切出されてこなかったが、地方自治体においては朝鮮学校が存在するすべての都道府県で、金額や名目の違いはあるものの補助金を支給してきた。ところが、「高校無償化」からの朝鮮学校排除という国による差別に倣い、一部の地方自治体が朝鮮学校への補助金交付停止や削減を断行する事態が続発しているのだ。都内にある私の子どもが通う朝鮮学校も2010年より東京都からの補助金が不支給となって5年がたち、厳しい学校運営を迫られており、保護者への経済的負担は増すばかりである。
 重い負担があるなかでも子どもを朝鮮学校に通わせているのは、自らの出自を隠すことなく、異国の地でも朝鮮人として堂々と生きてほしいからに他ならない。
 子どもたちは差別に負けることなく、毎日元気に学校へ通っている。しかし、朝鮮人に対するヘイトスピーチがまん延するなかで、街中で子どもらしく大きな声で「アンニョンハセヨ」(朝鮮語の挨拶)、「オモニ」(朝鮮語で「お母さん」の意)と朝鮮語で話したりすることをためらうようになった。「高校無償化」制度の適用と学習権の平等の保障を求めて署名活動をする朝鮮学校の生徒たちに、「死ね」「朝鮮へ帰れ」といったヘイトスピーチが浴びせられている現状もある。自分が朝鮮人だということを隠さなければと怯える姿や、ただでさえ「高校無償化」からの排除という差別に苦しむ生徒たちが、心ない暴言を受けて涙する姿をみるのは、親として、同じ朝鮮人として胸が張り裂けそうなほど辛いことである。
 朝鮮学校は、日本の植民地支配期に奪われた言葉や文化を日本で生まれた朝鮮の子どもたちに教えるためにつくられた。しかし、日本政府は、植民地支配の加害国として、被害者である朝鮮人の民族教育を原状回復の観点から保障するどころか、解放直後の1948年、49年に朝鮮学校閉鎖令を発布したのを皮切りに、一貫して朝鮮学校を弾圧し続けてきた。近年をみても、2003年に文部科学省がそれまで外国人学校等に認められていなかった大学受験資格を緩和したが、朝鮮学校の卒業生に対しては各大学による個別審査を課すという差別が残された。そうして2010年に施行された「高校無償化」制度においても朝鮮学校のみを露骨に排除したのだ。
 現在、日本で問題となっているヘイトスピーチにつき、昨年8月、人種差別撤廃委員会は総括所見のなかで「ヘイトスピーチの根本的原因に取り組み、人種差別につながる偏見とたたかい…」と指摘した。これは委員会が、在日朝鮮人に対するヘイトスピーチは突如現れたものではく、その原因に根深い植民地主義があると認識していることを示していると考えられる。つまり、連綿と続けられてきた国による一貫した朝鮮学校差別が日本社会で在日朝鮮人への差別を助長させ、偏見を生み出し、ヘイトスピーチをここまでまん延させていると言えるのではないだろうか。
 ヘイトスピーチをなくすためには、まず国が公然と行なっている朝鮮学校に対する差別をやめるべきである。朝鮮学校の保護者として、日本で子どもを育てる在日朝鮮人として、日本政府がいかなる差別もなしに民族的マイノリティの子どもたちの教育権を尊重すること、とりわけ朝鮮学校に対する差別を即時是正し、日本において民族教育が真に保障されることを切に望むものである。