自治体による定住外国人の人権施策が大きく後退 今一度、運動の構築を

金秀一(きむすいる)
かながわみんとうれん事務局長、IMADR-JC理事

 「かながわみんとうれん(民族差別と闘う神奈川連絡協議会)」は、在日韓国・朝鮮人をはじめとする定住外国人と日本人との共生をめざし、定住外国人への差別をなくすための取り組みを行っていく市民運動の結集体として、1988年3月31日に結成されました。これまで、神奈川の地において、在日韓国・朝鮮人をはじめとする定住外国人への差別をなくすための取り組みが、さまざまな形で地道にすすめられてきました。特に1970年代から教育に関する行政交渉、民間企業での就職差別、外国人登録法の問題等を地域の実態に学びながら生活に根ざした取り組みをすすめてきました。神奈川県内の各地で民族差別と闘う市民グループが、互いに交流し、当事者の在日と日本人が共闘していくことを基本に据え「共に生きる」社会の創造をめざして「かながわみんとうれん」は、活動を推進しています。「かながわみんとうれん」は結成以降、各団体と連携をとりながら、地方公務員の国籍条項問題、在日の無年金問題、戦後補償、教育問題などを行政に働きかけ、定住外国人の人権施策の実現を勝ち取ってきました。これは、多くの人の参加型の市民運動の結集を力にして行われたことです。
 これら1970年代から大きなうねりを見せた在日コリアンの民族差別と闘う運動は、現在、全国的なネットワークも薄れ、残念な現状です。そんな中、地方参政権付与反対運動、歴史認識問題、教科書問題、朝鮮学園の補助金不支給と、時流は逆行し、一昔前では考えられなかったヘイトスピーチが横行するようになりました。今や差別と排外主義、「ジャパニーズ・オンリー」思想が闊歩しています。
 「反日極左と不逞外国人から川崎をまもる」とわけのわからないアジテーションの下に行われてきた川崎でのヘイトスピーチは、川崎市外国人市民代表者会議をもその標的にし、同会議オープン会議に反対派が大挙して参加するなどしたこともあり、川崎市のこれまで積み上げてきた外国人市民施策の推進に確実にブレーキをかけたようです。ここ最近、カウンターの取り組みにより一時の勢いはなくなったようですが、この3月の行動にも50人が集まりました。このヘイトスピーチについて、私たちは川崎市にその対策をと何度か迫っていますが、川崎市、特に担当者は、無力で現状を放置しています。今年3月議会で国に対する議会意見書がやっと採択したにとどまっています。
 今年1月、平塚市内風俗店において外国人入店お断りの看板が発見され、発見者が平塚市と法務局へ相談したところ、「平塚市は指導できない。法務局においては掲示だけでは人権侵害とは言えない」との対応だったらしいのです。私たちは市の人権担当者には、差別落書きと同じでしっかり対応するべきと要請しました。その後、庁内において、関係局課の法制上での指導の可能性を協議したと報告を受けましたが、当該店には未だに行っていないとのことでした。
 昨年末に実施した県内自治体への調査でわかったことですが、外国人職員の採用・任用については後退している状況が明らかになりました。県内では、県、政令市で任用制限が残されていますが、国籍条項は職員採用において原則撤廃されていました。しかし、この間、完全撤廃していた自治体で新たに任用制限を付したことが明らかになったのです。完全なる逆行です。国籍条項撤廃後、政令市となった相模原市では市長部局では消防職も含めて完全撤廃ですが、教員任用については、常勤講師任用を決め、まったく整合性がないことを行なっています。一方、今年3月には藤沢市の外郭団体ですが、国籍条項があることが発覚しました。
 この間、外国人の人権施策に関しては、自治体が国に先駆けて推進されてきましたが、その営みは完全に無力化されています。今一度、運動の構築をと思う今日この頃です。