障害のある女性が直面する現実と私たちが求める政策

藤原久美子(ふじわらくみこ)
DPI女性障害者ネットワーク〔関西女性障害者ネットワーク代表〕

私たちDPI女性障害者ネットワークは障害のある女性の自立促進と優生保護法の撤廃を目指して、1986年に、障害のある女性たちの緩やかなネットワーク組織として発足しました。優生保護法が優生条項を削除し、母体保護法に改正された1996年以降、一時活動を停止していましたが、障害者権利条約の成立やDPI世界大会を機に2007年に再始動しました。現在障害のある女性をめぐる国内外の様々な課題への施策提言等に取り組んでいます。

私は2009年のDPI名古屋集会の時からご縁をいただき、自分の生きづらさが、障害があり、女性であるという複合性にあることを初めて知りました。そして関西でも同じ生きづらさを感じる仲間と2012年に関西女性障害者ネットワークを立ち上げると共に、DPI女性障害者ネットワークの一員としても活動しています。

2013年に日本は国連の障害者権利条約を批准しました。この条約は、既存の国際条約が掲げてきた人権の保障を、障害のある人たちが他の人たちと同様に実現すべきであることを確認するために作られた条約で、その策定プロセスに障害当事者が参画したことが大きな特徴です。条約策定時には、繰り返し、「Nothing about us, without us―私たち抜きに私たちのことを決めないで」という合言葉が語られました。そして、その条約の第6条には、障害のある女性および少女に複合差別があることを認識し、その尊厳を守るためのあらゆる措置をとることが明記されたのです。

私たちは、この「複合差別」についての明確な規定をもつ権利条約を批准するため、国内整備として勧められた法制度改革をチャンスととらえ、ここ数年間、積極的な働きかけを続けました。そのことにより、障害者基本法には、障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策は、性別や年齢などに留意して策定及び実施されなければいけない、との文言が入り、昨年つくられた第3次障害者基本計画では基本方針に、「女性である障害者は障害に加えて女性であることにより、更に複合的に困難な状況に置かれている場合があることに留意する」という文言が加えられた他、「障害者施策の適切な企画、実施、評価及び見直しの観点から、障害者の性別、年齢、障害種別等の観点に留意し、情報・データの充実を図る」ことなど明記されました。

また、今回提示された女性差別撤廃条約の第7・8次政府報告も、障害者基本法や障害者基本計画を引用して、障害女性の複合的な困難について言及しています。女性差別撤廃条約は、1991年に一般勧告として、締約国の障害のある女性の課題について報告することが義務付けられたため、これまでの政府報告にも、障害のある女性という見出しが設けられていたのですが、そこには、一般的な障害者施策の記述があっただけで、障害のある女性についての記述は一切ありませんでした。その意味では、今回の政府報告に障害のある女性の複合差別についての言及があったことは進展だということができると思います。

しかし、問題は計画を実行に移すことであり、今後さらに、障害者差別解消法の基本方針等に課題を反映させることや、障害者の課題に係る統計のジェンダー統計の標準化や具体的な施策の展開に、進めることが重要な課題になっています。現在も、障害者に関わる公的な調査では、ほとんど性別集計が行われていません。そのために、障害女性の置かれている困難な状況が把握されず、必要とする施策がなされないことが問題です。そのため、障害者の課題に係る統計、例えば、就労に関する統計やサービス利用に関する統計で、性別によって格差や違いが生じていないのか、いるとしたら、そこにはどんな課題があり、何を改善していく必要があるのかを考えていくことが重要だと思います。

DPI女性障害者ネットワークは、こうした、公的な統計では障害女性の課題が見えてこない現状のなかで、障害のある女性たちの抱える課題を明らかにするため、2011年に、アンケートと聞き取りをもとにした「障害のある女性の生きにくさに関する調査」を独自に行いました。
そのなかで一番多かったのは性的被害です。女性として扱われない一方で、その性を搾取されている現実が浮き彫りになりました。介助が必要な障害がある人の場合、異性による介助が、その温床ともなりやすい現状があります。

「障害のある女性の生きにくさに関する調査」
(事例の抜粋)
【性的被害】
1.母の恋人から性的虐待を受けた。母の恋人が、私のお風呂介護をして胸等をさわられ、非常に辛い思いをした。母にその事を言うが、信じてもらえず最悪だった。(30歳代 肢体障害)
2.義兄からセクシャルハラスメントを受けたが誰にも言えない。自分は自立できず家を出られないし、家族を壊せないから。あまりに屈辱で言葉にできないから。(50歳代 視覚障害)
【性と生殖について】
3.生理が始まった中学生のころ、母親から「生理はなくてもいいんじゃないの」と言われた。生理の介助が必要になるから手術して子宮を取るという意味だった。手術に同意しなかったが、言われただけで嫌だった。自分より年上の人にはよくあったことらしい。(40歳代 肢体障害)
【就労、収入について】
4.ある企業の面接で、「うちは本当なら障害者は要らないんだよ。まだ男性で見た目に分からん障害やったらエエねんけどな~。」と言われた。(30歳代 肢体不自由)

ある民間の機関のデータでは、単身世帯について男性全体の年収を100とすると、女性全体は66、障害男性は44、そして障害女性は22(92万円)という低さであるとの統計もあります。そして女性施策が障害女性に対応していないこともわかりました。例えばDV防止法は障害者も対象にしており、男女共同参画基本計画は複合的な困難がある女性に言及し障害女性もその中に含まれていますが、実際上は、障害女性を対象とした具体的な政策はほとんどありません。DV相談窓口に手話通訳者がいない、シェルターがバリアフリーになっていないため、車いすでは入所できないといった状況です。

こうした調査から言えるのは、障害者にかかわるジェンダー統計を整備し、実態を明らかにすることの必要性と、障害女性の参画のもとで、計画を策定し、障害女性の複合差別の解消に向けた具体的な施策を進めることが必要だということです。

私自身は9年前に妊娠した時、障害児が生まれるのではないか、障害があって育てられるのかといった理由で、医者と親族から堕胎を勧められました。いくら法律が変わっても基本的なところはまだまだ変わっていないと言わざるをえません。今だに、障害児の多くは、親の悲嘆や戸惑い、周囲の同情や憐みといった中に生を受けているのです。私が住んでいる兵庫県ではかつて「不幸な子どもが生まれない運動」というものもありました。人びとの意識の中で、不良な子孫、不幸な子どもという認識は未だ変わっていないというのが実情です。そうした認識のなかでは、障害があり子どもを産むということは、困難なことで、障害があるものが子どもを育てていくことをサポートする制度もみえてきません。

私たちは、どんなに重い障害があってもその性を尊重され、一人の人間として当たり前に生きていける社会、誰もが排除されることのない社会を目指して、これからも活動していきます。