マイノリティへの暴力と残虐行為の予防と対応―第7回国連マイノリティ・フォーラム

小松 泰介(こまつ たいすけ)
IMADRジュネーブ事務所 国連アドボカシー担当

11月25日から26日にかけて、「第7回マイノリティ問題に関するフォーラム(以下、フォーラム)」がジュネーブの国連欧州本部で開催された。フォーラムは、毎年マイノリティに関する特定の問題に対する勧告案を「マイノリティ問題に関する特別報告者」が事前に作成し、2日間にわたって各国やマイノリティ代表、NGOなどがそれに対する意見交換を行う場として開催されている。今年は「マイノリティに対する暴力と残虐行為の予防と対応」のための勧告が作成された。この勧告は時系列で分けられ、「予防」、「現在進行中の暴力への対応」、そして「暴力終結後」における国家、非国家主体、地域および国際主体それぞれへの勧告で構成されている。IMADRは、4つの声明を提出し、日本・インド・ネパール・スリランカのマイノリティの状況の共有を通して勧告案を支持した。以下、フォーラムで発表した声明の要約を紹介したい。

日本のマイノリティに対する差別とヘイトスピーチ
 日本において、特に在日コリアンをはじめとするマイノリティが差し迫った暴力と犯罪の脅威にさらされている。2013年には少なくとも360回のデモを人種差別集団が行い、虐殺の呼びかけや強制送還といったスローガンを繰り返した。人種差別集団はビデオで録画したデモの様子をインターネット上に投稿し、国内および海外に向けて自分たちの主張を拡散している。人種差別集団のメンバー数人が加害行為によって刑事訴追されたが、刑事裁判ではこれらの行為が人種差別行為であると認められなかった。さらに、マイノリティに対する差別発言をした政治家や公人は誰一人として適切に制裁されていない。
 マイノリティに対する制度的差別は特定の集団を狙った暴力や残虐行為のリスクを増大させる。植民地時代から日本に居住する在日コリアンは、投票権の否定や公職への限られたアクセスといった構造的差別に苦しみ続けてきた。遺憾なことに、日本政府は2010年2月に高校授業料無償化制度から朝鮮学校を意図的に除外することで、在日コリアンへの制度的差別をより強固にした。在日コリアンの子どもたちの自らの言語、歴史、伝統文化を学ぶ権利は政府によって否定された。人種主義者たちは政府のこの姿勢によって在日コリアンに対する差別が公式に正当化されたと解釈した。
 マイノリティに対する暴力と残虐行為を防ぐには、国籍、民族、肌の色、言語、宗教および世系に基づく差別を禁止する包括的かつ具体的な法律の制定が不可欠である。ヘイトスピーチ禁止法はマイノリティの人権の保護および加害者の処罰を目的とし、国際人権法に沿って作成されるべきである。また、国連人種差別撤廃委員会によって作成された「紛争とジェノサイド指標(CERD/C/67/1)」を参照して国が早期警戒指標を作成することを奨励する。最後に、各国政府をはじめこのフォーラムの参加者がマイノリティの社会参加を保証し、勧告を実施することを奨励する。

ダリット女性に対する暴力
 マイノリティに属する女性と少女の多くがレイプや性暴力といったジェンダーに基づく暴力のターゲットになりやすく、彼女たちは司法へのアクセスが否定されることでさらに弱い立場に置かれている。
 インドではカーストに基づく差別と家父長制社会によってダリット女性と少女は複合差別に苦しんでいる。インド国家犯罪記録局は2013年にダリット女性に対するレイプが2073件あり、前年から31.5%増加したと報告している。これは毎日少なくとも5人のダリット女性が昨年にレイプされたことを示している。しかしこの数字は氷山の一角に過ぎない。多くのダリット女性と少女は嫌がらせの恐れや法の支配への不信により警察へ訴えない。被害を報告した女性たちの多くが、訴えを取り下げるようにレイプを含む暴力や脅迫を警察から受けた経験を持っている。彼女たちが告訴したとしても、しばしば加害者は法的措置も受けずに保釈されている。
 ネパールのダリット女性と少女はヒンドゥー教のカースト階級制、家父長制社会、そしてダリット女性は魔術を使用するという迷信によって複合差別を受けている。複合差別によって彼女らはジェンダーに基づく暴力を受けやすいが、彼女たちの司法へのアクセスは警察によってたびたび否定されている。ダリット女性の被害者は、コミュニティの平和を維持するために深刻な犯罪の場合でも非公式に示談にするよう警察によって促されたり強要されたりしている。
 これらのダリット女性と少女たちの経験は珍しいものではなく、報告されていないマイノリティ女性と少女に対する膨大な暴力の被害が世界中にあると考えられる。免責の蔓延は紛争発生時のジェンダーに基づくマイノリティへの暴力を助長するだけである。インドとネパールを含め、各国はジェンダーに基づく暴力への対処およびマイノリティの被害者の訴えを客観的に取り扱うための訓練を警察官に提供すべきである。ジェンダーに基づく暴力に精通した女性の警察官の数も増やす必要がある。大規模なマイノリティの権利の侵害を防ぐために、国はマイノリティへの日常の暴力と犯罪に対処しなければならない。

スリランカにおけるマイノリティに対する暴力の再発と免責
 スリランカ政府は「タミル・イーラムの虎」との紛争終結後に「過去の教訓・和解委員会」を設立したが、委員会の勧告の実施を目的とした国内行動計画には、独立調査を行うための司法、警察およびその他の公的機関の独立性の再建といった主要な指摘を含めなかった。委員会が主張した深刻な人権侵害の疑いが取り上げられないために国内では免責が蔓延している。
 この免責の風潮はマイノリティに対する暴力と犯罪の再発の原因となっている。2012年の結成以来、過激派仏教徒集団であるボドゥ・バラ・セナは特に宗教的マイノリティであるイスラム教徒を攻撃している。今年6月にスリランカ南西部アルトゥガマのイスラム教徒コミュニティがボドゥ・バラ・セナによって攻撃された。これにより4人が死亡、約80人が深刻な傷害を負い、数十の家屋や店舗が破壊された。警察は直ちに暴動を鎮圧しなかったばかりか、ボドゥ・バラ・セナは未だ責任を追及されていない。
 さらに、民族的マイノリティであるタミル人の人権侵害の被害者とその家族、特に正義と説明責任を求めて活動している人びとは危険にさらされている。今年8月4日にコロンボにて、僧侶らに率いられた集団が失踪者の家族たち(多くが北部から来たタミル人女性)のミーティングを妨害した。この集団は家族たちをなじり、彼女らの安全を脅かした。警察は苦情を受け取ったにもかかわらず、この集団に対し迅速かつ効果的な措置を取らなかった。マイノリティの保護における警察の怠慢は彼女らをより脆弱にしている。
 説明責任および包括的な和解プロセスの保証をスリランカ政府が怠ったことが、マイノリティに対する暴力の再発に繋がっている。スリランカ政府は現行の取り組みがフォーラムの勧告と見合うものとなるよう再考すべきである。最後に、フォーラムが勧告を支持するよう奨励する。過去の教訓は勧告の重要性を証明している。国はマイノリティに対する暴力と残虐行為の予防の法的義務を有し、勧告は紛争後のマイノリティの権利の実現のための効果的な手助けになる。