先住民族世界会議で何が議論されたのか―採択された成果文書の概要と解説

猪子晶代(いのこあきよ)
市民外交センター

1 はじめに
私は、大学・ロースクール在学中から市民外交センターのメンバーとして、アイヌ・琉球の先住民族をサポートする活動を続けてきた。北海道・釧路で司法修習を受けた際には、休日にアイヌのイベントに参加したりアイヌの方にお話を聞いたりすることができ、貴重な経験となった。今回、NYで行われた世界会議には同じ市民外交センターの永井さんとともに参加し、先住民族と加盟国の交渉過程の報告、日本政府とのミーティング開催、スピーチの英訳、世界会議当日の説明などを通して先住民族をサポートした。アイヌ・琉球からの参加者の方に感謝していただけたのが一番であるが、私自身も勉強になるところがたくさんあり、非常に良い経験となった。

2 先住民族の権利の発展と世界会議の位置付け
 2014年は、1995年から続く第一次・第二次先住民族国際10年の終了の年である。過去20年を振り返ると、2007年に国連総会で採択された国連先住民族権利宣言(以下、「権利宣言」という)によって先住民族の権利が大きく前進したほか、「先住民族問題に関する常設フォーラム(PFII)」、「先住民族の権利に関する専門家機構(EMRIP)」、そして「先住民族の権利に関する特別報告者」が創設され、先住民族の権利の履行状況を審査し促進させる国際的な枠組みも発展した。世界会議は、過去20年間を振り返り、改善できる点は改善し、さらなるステップアップのために今後の方向性を示す重要な会議として位置づけられる。以下、世界会議初日に国連総会本会議でコンセンサス採択された成果文書について説明していきたい。

3 権利宣言と成果文書の関係
 権利宣言と今回の世界会議の成果文書は、どのような関係にあるのだろうか。権利宣言は、「先住民族は、○○の権利を有する。」という文言で、自己決定権(3条)や土地権(26条)など先住民族が有するあらゆる権利を成文化している。これに対し、本成果文書は、「我々(加盟国)は、○○することを公約する。」という文言を多用して、権利宣言に掲げられた権利の履行に向けた加盟国の今後の行動を示している。このように、本成果文書は、権利宣言を大前提に、同宣言の効果的履行のための行動を加盟国が公約しているのである。

4 成果文書の内容および解説
(1)権利宣言に対する加盟国の支持の確認
 まず、加盟国は、権利宣言への支持を再確認している(第3段落前段)。2007年の国連総会では、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの4カ国が同宣言に反対したものの(日本は賛成)、その後、4カ国は立場を変え、正式に同宣言への支持を表明した。本成果文書は、改めて加盟国の権利宣言に対する支持を再確認することにより、加盟国の足並みが揃ったことを明確にしている。
(2)権利宣言の国内履行
 加盟国は、権利宣言の目的達成・認識の促進のために、先住民族との協議・協力の下で、国家レベルでの適切な措置を講ずること、そして、それらの措置を展開・履行する場合には先住民族と協力することを公約している(第7、8段落)。このように本成果文書で加盟国が権利宣言の履行について公約をしたことで、国家・地方レベルでの履行が進むことが期待される。日本に目を向けると、世界会議には、アイヌ民族が日本政府代表団に入って参加し、内閣官房アイヌ総合政策室室長も参加した。琉球からは、参議院議員の糸数慶子さんが参加し、スピーチの中で国会議員として先住民族の権利の実現に尽力していくことを誓った。このように、日本の先住民族にとっても、世界会議は、権利宣言のさらなる履行に向けた良い機会になったといえる。
(3)女性、子ども、高齢者、障がいのある先住民族
 加盟国は、女性、子ども、高齢者、障がいのある先住民族の特別なニーズに応えるために、これらの者に対する政策を充実させることを公約している(第9、10、14、15、17~19段落)。先住民族の中でも特に弱い立場にある者に対しては、他の先住民族と同様に扱うだけでは足りず、積極的な支援措置が必要である。
(4)土地、領域および資源の権利
 土地、領域および資源に関する権利(以下、「土地権」という)については、権利宣言の26~28条に掲げられており、先住民族の重要な権利である。成果文書の起草当初、先住民族は、土地権を認定・裁定し、土地権に関する争議を解決する権限を司法機関から正式に与えられた公正、独立、中立で、公開され、透明性のあるメカニズムの設立を加盟国が公約することを求めていた。しかしながら、土地権については、加盟国との厳しい交渉を強いられ、最終的には、先住民族の土地・領域・資源に影響するプロジェクトに先立ち、自由で事前の情報に基づく合意を得ることを目的として先住民族と協議・協力するための「国家による公約を承認する」(第20段落)、先住民族の土地権を認識・促進・宣告する公正、独立、中立で公開され、透明性のある過程を国家レベルで確立するための「国家による公約を承認する」(第21段落)といったように、比較的弱い文言となった。成果文書のコンセンサス採択を実現するために、土地権の部分において先住民族は大幅に妥協することとなったが、今後の議論の発展に向けた第一歩になったといえる。
(5)持続可能な開発における先住民族の貢献
 先住民族は、資源の持続可能な利用に関する伝統的な知識を有していることから、環境保全、生物多様性、気候変動の分野でも積極的に活動している。本成果文書において、加盟国は、生物多様性の分野で先住民族の伝統的知識が重要な貢献をしていることを承認し(第22段落)、採取産業等の開発プロジェクトに際して先住民族と協働するように努め(第23段落)、法と国際原則を尊重する多国籍企業やその他の企業の責任を想起し(第24段落)、先住民族の伝統的な暮らし等を支援する政策を展開することを公約し(第25段落)、経済的・社会的・環境的な発展における先住民族の役割の重要性を承認し(第26段落)ている。なお、先住民族の貢献は、第34~36段落でも触れられている。
(6)国連を含む国際機関のシステムの改善および活用
 先住民族の権利は、人権、開発、環境等あらゆる分野に関わることから、国連全体での分野横断的な対応が必要であるが、現時点では不十分である。そこで、国連システムの改善および活用も成果文書の主要な柱となった。大きく分けると、1権利宣言の履行状況について、人権条約機関や普遍的定期審査(UPR)を活用すること(第29段落)、2事務総長が国連の一貫した取組みを確保するための国連全体に及ぶ行動計画を開始し進展状況を報告すること、国連の上級官に国連組織の活動の一貫性を向上させる責任を与えること(第31段落)、3先住民族の国連会議への参加とその支援(第33、38段落)、4「先住民族の権利に関する専門家機構(EMRIP)」の任務の再検討(第28段落)等がある。1について付言すると、2014年の自由権規約委員会と人種差別撤廃委員会の日本政府審査において、各委員会は、総括所見における先住民族に関する項目の中で、権利宣言に触れながらまたはこれを前提に日本政府に対して勧告していることから、ある程度達成できているといえる。

5 おわりに
 世界会議に参加した大方の先住民族の感想は、「権利宣言の完全な履行という我々の目標まではまだまだ道のりが長いものの、本成果文書によって確実に一歩前進した。これからも権利宣言の実現に向け精力的に取り組んでいく。」というものである。今後の議論にも注目したい。