大曲 由起子(おおまがりゆきこ)
移住労働者と連帯する全国ネットワーク
はじめに
移住連で取りまとめたNGOレポートでは、外国人の人権に関する10項目を取りあげた。
ここでは、具体的な勧告に至った人身取引、技能実習制度、退去強制と収容、そして移住女性の課題につき、前回の勧告を引き合いにしながら、また、現場でいかに勧告が活かせるのか、という視点で審査と勧告の内容を報告する。
人身取引
2008年の勧告にはなく今回新たに審査中に争点となったのが、労働搾取の人身取引における被害者認定とそれに対する対策だった。委員は「人身取引行動計画2009」の中では人身取引の定義が明らかではない、と指摘したが、注目すべきは、「特に労働搾取に関する対策がとられていない」からそういった質問をしている、とあえて言った。その懸念を反映し、勧告では「特に労働搾取の被害者について、被害者認定手続きを強化」すべきとした。他方で、政府は審査で「NGOとも協力を強化し…潜在化している可能性のある事案を積極的に把握」する、と答えている。まさに、これまで認定してこなかった労働搾取の人身取引被害につき、NGOと協力し「積極的に」把握していくことを注視していきたい。
外国人技能実習制度
続いて第8条「人身取引」の議論の延長上、つまり、「労働搾取に関する対策がとられていない」ということに関連して技能実習制度の議論に移った。政府は「第2条:規約実施義務」の項目のもと取りあげたその報告の中でも、そして審査でも、同制度は2010年の改正後、技能実習生の保護が強化されたと説明した。しかし、委員は現在も「まだまだ搾取が行われている」と指摘し、制度への廃止の声が上がっている点にも触れた。それにもかかわらず、6月に「拡充」に舵を切ったばかりという政府の姿勢を問いただした。さらに、委員は現状に見合った「就業プログラム」に現制度を置き換える計画があるのか、とまで言及した。同制度の問題が一年後のフォローアップ報告事項に含まれた意義は大きく、自由権規約委員会からの注目度がうかがえる。
退去強制と収容
2008年の勧告では特に庇護申請者の人権が取りあげられたが、今回の勧告では「非正規滞在者」について明確に取りあげられた。また、審査では、2010年3月に強制送還中に息をひきとったガーナ人のスラジュさんのケースが質問され、それが総括所見の中でも言及された。政府がそのような死亡事案が起きることを防止すべく、今後も「安全・確実な」送還を行っていくと決意を示したこととは対照的に、委員会は「移住者が虐待を受けることがないよう保証する」送還を勧告した。この違いは大きい。
また、「収容は最終手段にすべき」と明確に提示した委員会からの勧告を、政府は重く受け止めるべきだ。
その他、ノン・ルフールマン原則(迫害の恐れのある国に送還しない)が「実務上効果的」に適用されていないと懸念が示され、難民申請の不服申し立て制度の独立性についても、前回に引き続き課題として指摘された。
移住女性
委員会は、「ジェンダー平等」に関する段落で、「マイノリティの女性の政治的参加を評価し支援するための具体的な措置」をとるよう勧告した。さらに、続くDV等に関する段落では、保護命令につき、「移住女性に不十分にしか保護が提供されていない」と懸念が示され、「性暴力の被害者である移住女性の在留資格を喪失させないことを含めて、被害者が適切な保護を利用できることを保証できるよう努力を強化すべき」という勧告が出た。審査中、複数回に渡って委員がDV被害者の移住女性の不安定な在留資格について尋ね、議論されたことが反映された。
その他審査では、「嫡出」でない外国人の子どもに対する差別が、国籍法改正後も引き続き存在する点も指摘された。
その他審査では、外国人の人権に関して様々な指摘が行われた。これほど多様な外国人の人権問題について取りあげられる背景には、日本においていかに外国人に対する人権侵害が多いのかということを示唆している。道は長い。しかし勧告を真摯に受け止め、実施することはその一歩だ。