朝鮮学校排除―差別されているのは朝鮮学校の子どもたちであり、人権の問題だ

~自由権規約委員会第6回対日審査と人種差別撤廃委員会第3回対日審査報告~
宋 恵淑(そんへすく)
在日本朝鮮人人権協会事務局

はじめに
「高校無償化」制度から朝鮮学校が除外されて4年半、この間当事者である朝鮮高級学校の在校生と卒業生を中心に、朝鮮学校関係者や日本の心ある人びとが「高校無償化」の朝鮮学校への適用を求めてさまざまな運動を繰り広げてきたが、政府主導による露骨な朝鮮学校排除をめぐる動きは、9つの地方自治体がそれまで長きにわたり朝鮮学校に支給していた補助金を停止するという事態を引き起こし、在日朝鮮人に対するヘイトスピーチを勢いづかせている。在日朝鮮人、とりわけ朝鮮学校に通う子どもたちやその保護者は、この異様な状況に底知れぬ恐ろしさを感じているところである。こうした状況を打開するべく立ち上がったのは、他ならぬ当事者たちであった。「高校無償化」制度が実施された2010年当時高校3年生で、拉致問題や朝鮮半島情勢など、生徒たちには何の関係もなく力も及ばない問題を持ち出され、その適用を見送られた朝鮮高級学校の卒業生たちや、地方自治体による補助金ストップの影響で厳しい学校運営を迫られている朝鮮学校に子どもを送っている保護者が、7月の自由権規約委員会と8月の人種差別撤廃委員会の対日審査に参加し差別の実例を情報提供した。
 本稿では、朝鮮学校が直面している諸問題についてそれぞれの委員会でどのような議論がなされ、審査後に発表された総括所見の意義について概観したい。

自由権規約委員会第6回対日審査

 7月の自由権規約委員会対日審査は、6年ぶりとあってヘイトスピーチや福島原発事故後の諸問題、刑事司法や日本軍「慰安婦」問題等、多岐にわたる課題が取り上げられた影響もあり、6時間の審査時間内には「高校無償化」に関する質問が出なかった。しかし特別に30分ほど延長されたセッションで、委員会の副議長が「『無償化』制度が朝鮮学校には適用されていない」「日本政府は法令に基づく適正な学校の運営という指定の基準に適合すると認められなかったためとしているが、この点について理解できない」「なぜなら朝鮮学校の子どもたちは差別されている」とのコメントを発し、日本政府を批判した。これに対しては時間切れとなり、文書による回答が後日なされたが、そのなかで日本政府は、「朝鮮学校は朝鮮総聯と密接な関係にあり、教育基本法第16条の『不当な支配』下にないという明白な確証を得られない」「朝鮮学校が学校教育法上の一条校になるか、朝鮮民主主義人民共和国との国交が正常化すれば、『高校無償化』の適用について再審査されることになるだろう」「多くの在日韓国朝鮮人は、一条校やすでに『高校無償化』の適用対象となっている外国人学校に通っており、こうした生徒には『高校無償化』は適用されているので、これは国籍による差別にはあたらない」と回答している。
 7月25日に発表された総括所見では、「高校無償化」適用に関する明確な記載はみられなかった。対日審査の事前質問事項でも指摘され、審査の場でも質問されたのになぜなのかと疑念がわくが、実は総括所見には、「締約国は、委員会によって採択された今回の勧告及びこれまでの総括所見を実行するべきである」という勧告がある。自由権規約委員会は既に前回、朝鮮学校に対する「国による補助金を増大」するよう勧告している。朝鮮学校への「無償化」適用とは、朝鮮高級学校生に日本政府、すなわち国が就学支援金という名の補助金を支給することであり、それは前回勧告済みとみなされた結果、履行されてない勧告の実行を求めるという文言に代えられたのではないかと考えられる。勧告に含められなかったのは残念ではあるが、重要なのは、当事者がジュネーブまで赴きその不当な差別を訴えたことによって、自由権規約委員会の委員たちに、朝鮮学校に対する差別は前回の審査以降是正されず懸念すべき問題であり続けていると認識させたことである。

人種差別撤廃委員会第3回対日審査
 8月には人種差別撤廃委員会が行われた。同委員会は前回の総括所見で、「高校教育無償化の法改正の提案がなされているところ、そこから朝鮮学校を排除するべきことを提案している何人かの政治家の態度」について懸念を表明している。それにも関わらず日本政府が拉致問題を筆頭に、朝鮮学校の子どもたちとは何の関係もない政治・外交上の理由を持ち出して朝鮮学校を排除したばかりか、そのような差別が新たな差別を呼んでいる現状に関する情報がNGOより提出された。そして、審査を前に行われたNGOブリーフィングで朝鮮学校をターゲットとするヘイトデモの様子などをまとめた映像を観たこともあり、18人の委員のうち実に3分の1にのぼる6人の委員が「高校無償化」と補助金問題について日本政府に対し質問やコメントを行った。
 「高校無償化」制度において、朝鮮学校だけ別扱いされているなどの委員からの質問に対する日本政府の回答は、前述の自由権規約委員会での文書回答となんら変わらないものであった。それに対して、ユエン委員は「委員たちからなぜ同じ質問が2回も3回も繰り返されているのか、それは日本政府の回答が満足なものではないからだ」と、鋭く批判しながら、「委員から出されている基本的な質問は、これは差別の問題ではないのか、ということだ。人種主義の、人権の問題ではないだろうか。最終的に被害を受けるのは誰か、それは朝鮮学校に通う生徒たちだ。政治的な理由や他の理由がいろいろとあるだろう。しかし、これが差別という人権侵害の問題であると感じているから質問が繰り返されているのだ」とコメントした。
 8月29日に発表された総括所見で委員会は、「朝鮮学校(Korean school)」という項を設け、「高校無償化」制度からの朝鮮学校の除外ならびに朝鮮学校へ支給される地方政府による補助金の凍結もしくは継続的な縮減について懸念を表明した。そのうえで、日本政府に対し、「朝鮮学校への補助金支給を再開するか、もしくは維持するよう、締約国が地方政府に勧めることと同時に、締約国がその見解を修正し、適切な方法により、朝鮮学校が『高校授業料就学支援金』制度の恩恵を受けられるよう奨励する」(総括所見パラ19)と勧告した。
 これまで、朝鮮学校に対して支給されている補助金の増額や国庫補助を求める勧告は何度か出されてきたが、「高校無償化」からの朝鮮学校除外に端を発し、支給停止となった地方自治体による補助金の復活を求める勧告は今回がはじめてである。さらに注目すべきは、「締約国がその見解を修正し、適切な方法により」朝鮮学校に「高校無償化」を適用せよという文言だろう。審査でのやり取りから、日本政府が言うところの「一条校になるか、もしくは朝鮮民主主義人民共和国との国交が正常化すれば朝鮮学校も『高校無償化』の適用対象となりえる」という、朝鮮学校の生徒たちには何の関係もなく到底力の及ばない方法が「適切な方法」ではないということは明らかである。また、総括所見パラグラフ33において、「高校無償化」制度からの朝鮮学校除外および地方自治体による朝鮮学校補助金支給停止についてその是正を勧告したパラグラフ19を特に重要な勧告であると指摘し、次回の報告書に勧告実施のためにとった具体的措置の情報を提供するよう求めていることも合わせて押さえておきたい。

勧告実現にむけて
 朝鮮学校の「高校無償化」適用問題と補助金支給復活問題は、昨年の社会権規約委員会に続いて、今年も差別であると懸念視されその是正が求められた。特に人種差別撤廃委員会がパラ19を重要な勧告であると指定したことは、今まさに朝鮮学校に通っている生徒が排除され学習権を奪われているという差別の、人権侵害の現実があるからに他ならない。勧告だけでなく、朝鮮学校の子どもたちが被っている差別の現状を日本社会でひろく周知させながら、朝鮮学校に対する理解と支援の輪をひろげ、それを日本政府に勧告の実行に向けた具体的かつ適切な措置を迫る大きな包囲網へと発展させていきたい。さいごに、この場を借りてこの間のIMADRをはじめとする日本のNGOの皆さんの激励とご協力に感謝を申し上げるとともに、引き続きの共闘をお願い申し上げたい。