『ある精肉店のはなし』

監督/纐纈あや
(2013年 日本)
(108分
伊藤栄子(いとう えいこ)
世界人権宣言八尾市実行委員会・NPO法人KARALIN

 昨年の秋に公開された大阪府貝塚市が舞台のドキュメンタリー映画。「これは観なきゃ!」と友人と年の瀬の映画館へ繰り出した。監督は、2010年に原子力発電所建設計画に反対する『祝の島』を撮影した纐纈さん。熱い思いが詰まっているに違いない!
 商店街で見るただの「お肉屋さん」のはなしではない。飼育して屠畜して枝肉にして卸も小売りもしている「精肉店」。家業を守り継ぐ、まっとうな人々の生きざまを今までと現在、そしてこれからを重ねあわせて描いている。店から徒歩で牛と屠場に向かう。そしていきなり、眉間にハンマー!!衝撃的な始まりに思わず「あっ」という声を飲み込んでしまった。

私:すごいなぁ!(としか言えない)
友人:ほるもん、ほんまにないんやわ。あー、油カスってこうして作るんや! 内蔵の処理ってほんまスピードと技。
私:子どものときから手伝って見て覚えて、手が動くカラダが動く。
友人:近所の小学校で弟の昭さんが子どもたちに太鼓教えてるの見学にいったよ。見学するよりおとなの私が太鼓つくりたかったわ。
私:近くの盆踊りは太鼓あるのに、この貝塚東盆踊りは太鼓のない盆おどり。鳴りものに合わせて、思い思いの仮装で踊りまくるところ、日常からの解放感。家族の食卓がまたワイワイ賑やかで。まかないも焼き肉もほんまにおいしそうやった。
友人:私、その盆踊り1度いったことあるよ。被差別部落やから太鼓が禁止されたとか、この日は感謝の意味で牛の皮使った太鼓使わないとも聞いたことがあるわ。仮装とかもしていてユーモラスなんよ。その中で、踊りには最後手をあわす感じの仕草があって、厳しい差別の中でのみんなの祈りというか歴史というか感じて泣きそうになったこと思い出すわ。

 店頭からは見えない精肉店の仕事。子牛を仕入れて、毎日世話をする。りっぱな肉牛になると屠畜解体、すべてが生かされる。一連の流れにあるのは感謝と職人の誇り。獣魂碑にはいつも花が供えられている。
 最初のシーンで、最後まで見られるかとドキドキした。「命をいただく」ということを深く考えないまま遠いところに置いていた…。そうだ、私は命をいただいて、命をつないでいる。屠場の映像は言葉にならない。「生」の反対は「死」ではなくて、「再生」を意味する。ただの流れ作業ではない。代々受け継がれた家族ならではのチームワーク。最初の一撃で受けた「怖い」は徐々に「ちゃんと見よう」、画面越しではあるけれど、大事な場面に立ち会わせてもらっている。時々カラダにぐっと力が入る。引き込まれて目が離せない。じっと見た。見せてもらえてよかった。
 北出精肉店の歴史は江戸時代末期まで遡ることが出来る。店主は島村に生まれ七代目、そこで生きていくとはどういうことか。家業を継いでみんな休みなくもくもくと働く。そんな中、差別をなくしたい、胸はって生きたいと声に出し行動してきた世代である。誇り高き真剣勝負、命をつないでいる職人たちを、そこに生きる人たちをじっくり観てほしい!
貝塚市立と畜場は2012年に閉鎖。北出精肉店の仕事が最後だった。営みのかたちは変化するけれど、北出精肉店のはなしはまた次の世代へ、まだまだ続くのである。