ミャンマーと国連人権理事会
国連人権理事会は、2021年2月に開かれたミャンマーのクーデターに関する特別理事会29会期以降、年3回の通常理事会においてほぼ毎回、ミャンマーの人権に関して議論を行ってきた。現在、人権理事会には、ミャンマーの人権状況に関する特別報告者とミャンマー独立調査機関という2つの特化した機関に加え、人権高等弁務官事務所(OHCHR)があり、定期的な報告を行ってきた。国連では、2017年のロヒンギャに対する民族浄化やクーデター後の急速な人権・人道状況の悪化、軍による深刻な国際人権・人道法違反などに対処すべく、議論や決議採択を行ってきた。しかし、状況は悪化を辿る一方で、平和的解決策がないまま泥沼化している。人権理事会、安全保障理事会そして総会での議論は、国際政治、特に大国間の駆け引きによる国連機関の弱点が如実に示され、決定的な行動がとれないまま各機関の決議や勧告はミャンマー軍により嘲笑的に無視され続けているのだ。
国連人権理事会56会期
人権理事会56会期(6月18日から7月12日)では、初日に人権高等弁務官からのミャンマー、特にロヒンギャやその他マイノリティの人権状況に関する報告がなされ、それに関する双方向対話が開催された。これに加え、7月3日には特別報告者の口頭報告とそれに関する議論、さらに会期の後半にはイスラム協力機構(OIC)による決議案が提出される。OICによる決議案はロヒンギャの状況に特化したもので、毎年6月の人権理事会で定期的に提出されている。今会期では、人権高等弁務官および特別報告者による報告を受けながら、悪化する人権状況、特に深刻化するラカイン州の状況について、どこまで効果的な決議が採択されるかが問われている。
会期初日に行われた人権高等弁務官の報告では、非合法な軍事政権による残虐行為や犯罪がハイライトされ、現在の状況は数十年にわたる軍事支配、反対意見の圧迫そして社会の分断が生み出した象徴的な危機だとされた。人権高等弁務官は、現在、全く同様の力学が、ロヒンギャとラカインコミュニティに対して恐ろしい形で繰り広げられていると述べた。斬首、真夜中のドローン攻撃、寝静まった民家への放火、逃げる市民への銃撃などの蛮行が強調された。2021年のクーデター以降、少なくとも5千人以上の市民が軍により殺害され、2万7000人近くが逮捕、このうち2万人以上がいまだに拘束されている。さらに、悪化する内戦により、300万人が国内避難民となっている。このような危機的状況に対し、人権高等弁務官はこれまでのASEANによる働きかけが功を奏していないことを指摘し、国際社会はその集団的な対応を緊急に考え直す必要があると強調した。
各国の反応
人権高等弁務官の報告に関する議論には5つのグループ(EU、OIC、ベネルクス3国、CANZ※1、NBS※2)に加え、個別に32カ国が参加した。クーデター以降、人権理事会で開催されてきたミャンマーに特化した議論には、20〜30の国が参加してきたが、同国の急速な人権状況の悪化をうけ、今回はより多くの国が参加した。大多数の国はミャンマーの惨状に対して、国際社会が行動をとるよう要請したが、中国、ベラルーシ、ロシア、ベネズエラからはむしろミャンマー軍を擁護し、国際行動に反対する主旨の声明が発表されている。これら4つの国は当初からそうした態度を示してきており、残念なことに今会期ではベトナムからも似た方向性の声明が出されている。
※1 カナダ、オーストラリア、ニュージーランド。
※2 ノルディック・バルティック諸国
IMADR通信219号 2024/8/8発行