2024.11.29

米雑誌が報じた水平社と部落民 ─102年目の再会

「日本には階級がある」。
米雑誌「The Nation」は、1923年9月25日号で水平社について報じた。記事は2ページ少しにわたるもので、段組みで小さな英文字がぎっしりと詰まっている。「『日本には階級はない』、経済や社会の現状維持を望む人たちはそう言ってきた。しかし、事実はそうではなかった。日本には階級がある。日本の新聞で、“エタ”や“特殊部落民”と呼ばれる“アウトカースト”の集団について報じられない日はない」記者ガートルード・ハスラーのコメントから記事は始まる。

続いて、「内務省の部落救済改善事業、キリスト教青年会(YMCA)の集会における差別発言の騒動、全国水平社とそれに続く地方水平社結成の動きなど、日々、新聞に“特殊部落民”について載らない日はない」と書いている。

歴史を少しさかのぼり、明治になった直後の動きも概括している。「明治になり解放令が出され、部落民に対する賤称が廃止された。解放令は、それまで部落民に課せられていた労働、遊興、結婚、信仰など日常生活における厳しい制限も廃止した。それにもかかわらず、社会の偏見は続き、根本的な変化はほとんど起きていない。布教と慈善活動を通した社会との限定的な交わりはあるものの、部落民は完全に社会から遠ざけられている」。

解放令以前とほぼ変わらないと断ずる部落民の生活について、職業、住居、結婚、宗教、地域活動、移動の自由、服装の項目別に分けて述べている。
職業:部落の調理人を雇う食堂は、部落だけの仕出し屋に徹しない限り、営業はできなくなる。今や役者は、女性でも、尊敬されるようになった。しかし、道化、曲芸、寄席芸人は大抵部落民である。
結婚:部落民と結婚した人は、男女関係なく、部落民の身分に下がる。
宗教:部落民に寺への参詣を認めているのは真宗だけである。
地域活動:部落民は税金を納め、兵役にも服さなければならないのに、地域の活動からは完全に締め出されている。1922 年10 月、埼玉県大里郡の村で開かれたシベリア帰還の兵士の歓迎会に、村役人の判断により地元から出兵した2人の部落青年は招じいれられなかった。

「政府は部落の生活を改善しようとしているが、部落民が求めているのは慈善でもなければ温情でもない、部落に対する態度の根本的な変革である。1918年に米騒動が鎮まったあと、政府は大衆運動に警戒し、部落地区での校舎建設に1万円を拠出した。しかし、これまで完全に無視されてきた部落民は、彼らの社会的地位を根本から変えない限り納得しなかった。人びとの団結が強まるにつれ、政府はさらに脅威を感じ、内務省の救済改善事業の予算は、1922年度には100万円に達した。一方、政府の懸念が的中したかのように、部落民は自らを組織して強力で全国規模の水平社を創った。」

記事は、その後、水平社宣言、綱領、1年後に開かれた第2回全国大会の檄文の紹介、そして記者の論評が続く。

102年後「The Nation」がやってきた
「The Nation」は1865年6月、奴隷制度廃止論者たちが設立した独立系の雑誌で、今も原則を重んじる進歩的なメディアとして活動している。1924年5月11日付の「愛國新聞」がすでにこの記事を日本語に訳して報じていた。2022年のリニューアルで、水平社博物館は記事を展示物に追加することにし、筆者は「The Nation」に連絡をして展示の許可をとった。読み進むにつれ、いろいろと興味が湧く。この記事を当時の読者はどう読んだのか、続報はあったのか、この記者はどのようにして、誰に取材をしたのか……。そんななか、「The Nation」読者グループの予期せぬ訪問に心が躍った。

IMADR通信220号 2024年11月22日発行

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