2024.11.28

〈職業〉ハイドとハードシップ 南アジアの皮革労働者

インド、バングラデシュ、パキスタンでは、カースト、宗教、そして皮革加工の間に歴史的なつながりが見られる。これら南アジアの国々では、牛の皮を扱う仕事は、汚れていて誰もやりたくない仕事と見なされている。インドでは、皮革を扱う仕事は伝統的に「不可触民」であるダリットやイスラム教徒に割り当てられてきた。
工業化が進んでも、皮革産業で働く労働者の多くは、依然として指定カーストやイスラム教徒の出身である。インドの定期労働力調査(PLFS)の分析によると、皮革産業で働く労働者の43%が指定カーストに属し、さらに33%がイスラム教徒を含むその他後進階級に属している。インドでは下位カーストが皮革労働に従事する傾向があることがいくつかの研究により示されている。
時代とともに、皮革産業の一部では汚名が拭われ、上位カースト出身者が経営者や代理店として関わるようになった。しかし、材料を直接扱う仕事にはつかない。皮革に直接触れる仕事には依然として汚名が着せられており、主に指定カーストやイスラム教徒が従事している。PLFSの調査でも、皮革労働者の大半は指定カーストであるが、経営者のリストに彼らはいない。以下、これら3ヵ国の状況を見てみる。

バングラデシュ
バングラデシュのダリット権利運動の関係者が、カーストと皮革産業の関係について次のように語った。
「バングラデシュには18のダリット・コミュニティがあり、ラビダスとリシが皮革の仕事をしています。私はラビダスのコミュニティ出身です。バングラデ
シュがまだ東パキスタンだった頃、曾祖父がインドのビハール州からバングラデシュに連れてこられました。当時は多くの農地があり、さまざまな家畜がいましたが、死んだ動物を処理する人がいませんでした。そのため、ラビダスがここに連れてこられ、皮を剥いだり、なめしたりしました。当時は、町の外で、人びとから離れたところで暮らさなければなりませんでした。政府の支援は一切ありませんでした。」
バングラデシュがまだ東パキスタンだった頃、このように言われていました。
「この仕事をするのはラビタスだ。彼らは牛の皮を剥ぎ、乾燥させる方法を知っている。革にしたら市場に持っていって売る。仲買人がラビダスからそれを買う。しかし、彼らはまともに価格交渉ができなかったから、仲買人の言い値でしか売れなかった」
都市にいるラビダスは主に靴の修理をしています。店はないため、道端で客が来るのを待ちます。一日、一日を生き延びるのがやっとです。ラビタスは靴を縫う仕事にもついています。換気や照明は悪く、非常階段もない小さな部屋で靴を縫っています。働いているのはほとんどが男性です。仕事は出来高払いで、仲介業者がピンハネをしているため、1足につき10タカ(約13円)ほどしか支払われません。おまけに支払いは滞りがちです。
ラビダスは死んだ動物から部位を取り、塩や石灰などで処理をして市場に持っていきます。商売の正規のルートには参加していません。彼らの商売は、動物が死ぬこと、それを人びとからもらうことに依存しています。原料の供給は、どこかで動物が死ぬことにかかっています。洪水になれば多くの家畜が死ぬ。洪水のときに一番仕事があり、お金も稼げます。こんな言い伝えがあります。「洪水はラビダスにとって金儲けの季節だ」。今は動物医療が発達したため、家畜は長生きするようになりました。仕事の材料が簡単に手に入らなくなったため、建設現場の仕事に転職する人がでてきました。
大きな皮なめし工場では、ほとんどの役職がイスラム教徒によって占められています。多くのラビダスが、正式あるいは非公式の皮革工場で働いています。皮なめし工場がうまく機能するために、正規の皮なめし工場がやりたがらない部分を非公式の職人たちが引き受けます。それを担っているのがラビダスです。彼らは主に動物の皮を剥いだり血を抜いたりします。その後、皮を乾かして石灰を塗ります。これも彼らの仕事です。高校に入る前、私も死んだ動物や皮を集め、加工をして革にし、市場に売りにいきました。誰がそうした仕事をしているのか、革を使って靴やブレスレットを作っているのか、この業界の非公式な部分にどれほどの人が関わっているのか、そうしたデータは何もありません。
皮革産業が整備されて公式なものになったとき、ラビダスはこのプロセスから排除されました。誰もが驚きました。今も彼らは皮革産業における非公式な部門を担っています。非公式に働くということは、社会的な保護がないということです。技能向上のための助成金もありません。彼らは自分の権利や資格も知りません。システムの一部になる機会も与えられません。

パキスタン
パキスタンでは以前、特定のコミュニティが動物の死体の皮を剥ぐ作業を行っていた。これらコミュニティでは今もその作業を行っているかもしれないが、それは不可視化されている。この仕事には汚名が着せられているため、身を隠して密かに働いている。昔この仕事についていた世代は、周囲から罵倒され不可触の行為を受けた。パキスタンにはこの仕事に関する調査や記録はない。どのような人が皮なめしの工場で働いているのかも不明である。

インド
インドのダリット権利団体の関係者は次のように語った。
「私はインド東部、バングラデシュと国境を接する西ベンガル州の村の出身です。私はラビダスというダリットのコミュニティに属しています。ラビダ
スは、カーストのアイデンティティに従い、皮革の仕事についています。
祖父の時代、ラビタスには皮革以外の仕事はありませんでした。村の周辺で動物の死体が見つかったら、人びとは受け取りに行き、処理をしました。それがこのカーストにあてがわれた仕事でした。祖父は教育を受けたことはありませんでした。教育は上位カーストや支配階級だけのものと考えられていました。
父は学校に通いました。成績はよく、ムスリムの教員が父の才能を見いだし、応援しました。しかし、上位カーストの教員や生徒たちはよくできる父を妬み、教育を受けさせてはいけないと考えていました。
動物の死体を処理して皮を剥ぐまでのすべての工程を私たちは代々学んできました。人びとは貧しく、こうした工程を迅速に進める設備や薬品を買うお金はありませんでした。お金があっても私たちのカーストには薬品を売ってもらえませんでした。そのため、自然に頼った工程で作業をしました。
動物から皮を剥ぐには力がいるので、主に男性が行います。女性は皮の染色を行います。裁断はどちらも行い、掃除などの片付け作業はほとんど女性が行います。コルカタには革の産地があり、家内で靴やバッグを作っている人たちがいます。家族ぐるみの仕事です。近隣にはイスラム教徒が多く、ヒンドゥー教徒のダリットは全体の10%ほどです。ほとんどの家にはミシンがありません。家の外には皮がぶら下がっています。染料に化学薬品を使いますが、防護の装具はありません。化学物質に常にさらされているため、呼吸器や皮膚の病気をはじめ、あらゆる種類の健康問題を引き起こす危険性があります。実際、多くの職人は慢性気管支炎や肺気腫、さらには肺がんにかかっていますが、お金がないため病院に行けません。
経営者はイスラム教徒か支配カーストで、約96%の事業は彼らが所有しています。ダリットが所有する小規模事業は1、2ヵ所です。支配的なカーストが中間業者として存在し、ダリットを債務労働者として働かせています。ダリットには自分で事業を始めるなどの選択肢はないのです」

【脚注】
ARISA(Advocating Rights in South Asia)は、オランダにあるNGO で、南アジアのサプライチェーンで働く人びとの労働条件を向上するために調査とアドボカシーを中心に活動しています。
※本記事は2023 年3月にARISA が発行した Hides and Hardship の一部をIMADR が訳したものです。

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