バングラデシュには推定500万人のダリットがいるが、その存在は周縁化されており、ほとんど見えてこない。ダリットのなかにはキリスト教徒、イスラム教徒、仏教徒もいるが、大多数はヒンドゥー教徒であり、清掃や手作業による糞尿処理、皮革加工、豚の飼育など、単純労働と呼ばれる仕事に就いている。また、農園や茶畑で働く人もいる。私が活動している団体、「バングラデシュ・ダリットおよび排除された人びとの権利運動(BDERM)」は、長年ダリットの権利促進に取り組んできた。この15年間、シェイク・ハシナ前首相の政権が弾圧的な姿勢を強め、ダリットコミュニティは物価高騰と低賃金に苦しんできた。さらに最近、バングラデシュでは政変が起きた。
7月15日、与党のアワミ連盟支持者の一部と警察は、国の公務員職における不公平な割り当て制度に抗議した学生たちを攻撃した。これに対して、バングラデシュの国民は怒り、激しい抗議活動に発展した。そして8月5日、シェイク・ハシナ首相は退陣に追いやられた。新たに選挙が実施されるまでは、暫定政府が政権の座についている。
シェイク・ハシナは8月5日に出国。その後の数日間、バングラデシュは政権不在となり、法と秩序が完全に崩壊した。警察であれマイノリティコミュニティであれ、シェイク・ハシナの支持者と思われる人たちへの攻撃が始まった。攻撃した人たちは、マイノリティはアワミ連盟の支持者だと信じていたようだ。また、こうした混乱に乗じた略奪や犯罪が横行した。ダリットの家、寺院、職場などが狙われた。しかし、ほとんどの警官は、ハシナ政権時代政府に抗議をする人たちを虐待したことで逮捕されるのを恐れ、警察から姿を消した。そのため、混乱時に助けを求めて警察に行く人は誰もいなかった。その代わり、ムスリムの隣人やイスラム神学校の学生たちが守ってくれた。
政治にまったく関っていないダリットの数百世帯が襲われ、国内64地区のうち少なくとも52地区で、200戸以上の家や商店、ヒンドゥー寺院が襲撃され、少なくとも5人が殺された。被害者の多くはダリットであるが、大半は通報されていない。なぜなら、バングラデシュでは誰もダリットに関して語らないからである。
新政権に求めたいこと
その後、暫定政権が発足した。私たちダリットコミュニティは、学生リーダーと暫定政権最高顧問のムハマド・ユヌス博士と面談し、私たちマイノリティを守るという約束を得た。ユヌス博士は、10月のヒンドゥーの祭「ドゥルガ・プジャ」を安全に祝えるようにすると発言した。
暫定政権がダリットの権利保護のために行うべきことは数多くある。私たちは、国際社会と人権理事会に対し、バングラデシュ政府に次のことを促すよう求める:
*バングラデシュに、大規模なダリットコミュニティがあること、そしてコミュニティは周縁化されており、生活のあらゆる領域において差別に直面していることを認めること
*ダリットを支援するために、的を絞った政策と包括的な開発計画を採ること
*長年求めてきた反差別法を制定すること
*バングラデシュ憲法を改正して、ダリットを明示的に確認すること
*ダリットの権利を促進する専門の機構を作ること
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これら4人のパネリストのプレゼンテーションは、カースト制度が単なる地域や地方の問題ではなく、国連やその他の国際機関が取り組むべき世界的な人権危機であることを強調した。児童労働、気候正義、ジェンダーに基づく暴力に至るまで、カースト差別は主要な人権問題と交差している。カースト制度による差別との闘いは、「誰一人取り残さない」という世界の目標の達成に不可欠である。
IMADR通信220号 2024年11月22日発行