2024.11.29

国連人権理事会選挙

国連人権理事会は世界の人権侵害に対処することが任務とされる主要な国連機関の一つであるが、国連総会や安全保障理事会と同様、各国政府代表部から成り立つ政府間機関であり、その議論や決議採択のプロセスでは、人権というテーマを通した政治的な駆け引きや外交が行われる政治的な機関である。理事会は47理事国から構成され、さらに、地域的な多様性を確保するため、国連によって定められた地域ごとに、以下のように定員が定められている。
● アフリカ(エジプトを含むアフリカ大陸の国54 カ国)― 13
● アジア・太平洋(中東、中央アジア諸国も含む55 カ国)― 13
● 東欧(コーカサス諸国、ロシアを含む23 カ国)― 6
● 中・南米(33 カ国)― 8
● 西欧その他(北欧諸国、オーストラリア、ニュージーランド、イスラエル、アメリカ、ギリシャ、トルコを含む29 カ国)― 7

「選挙」の実情
世界の人権を守るための重要な任務を負った人権理事会であるが、その政治的な性格は度々問題視されてきた。理事国となる国には、国内外において「人権の促進と保護において最高水準を維持」し、「理事会に全面的に協力」することが求められている。しかし、現在理事国となっている国およびこれまで理事国となった国の中には、それを機会に人権問題により積極的に取り組もうとする国がある一方、理事会の議論や決議に際して建設的な参加を行わない国や、むしろ自国や関係国の人権問題を擁護し、国際的な介入を妨害しようとする国も少なからずあり、人権理事会の本来の任務を全うするために貢献するどころか、むしろ理事会の政治化や弱体化を促進している。

このような現実の背景には理事国の選挙の問題がある。理事国は毎年その約3分の1ずつが国連総会で国連加盟国の無記名投票によって選ばれている。このとき大きく作用するのは、候補国の人権に関する記録や取り組みというよりは、その国の地域的・戦略的な同盟関係や外交関係だ。そのため、人権侵害にむしろ関わっている国や、理事会や国際社会に対して非協力的な国が理事国となることが度々ある。また「選挙」とは言いつつも、政治的交渉を通して、それぞれの地域枠における空席数以上の候補国が出ないよう、事前に調整して合意する地域が多くあり、この場合、投票は形式的なものとなる。

2024年度理事国選挙結果
2024年10月9日、ニューヨークの国連総会で2025年から2027年までの任期を務める人権理事国の選挙が行われ、ベナン、ボリビア、コロンビア、キプロ
ス、チェコ、コンゴ民主共和国、エチオピア、ガンビア、アイスランド、ケニア、マーシャル諸島、メキシコ、北マケドニア、カタール、韓国、スペイン、スイス、タイの18カ国が選出された。しかし実際は、立候補した国の数は19で、世界5地域中4地域は候補国がそのまま当選した(どの国も国連加盟国大多数の160から180ほどを得票)。投票を通して理事国が決まったのはアジア・太平洋地域のみで、得票順に、タイ(177票)、キプロス(167票)、カタール(167票)、韓国(161票)、マーシャル諸島(124票)、サウジアラビア(117票)という結果で、サウジアラビアが落選した。ただし、得票数が多いからといってその国の人権水準が高いというわけではもちろん
ない。ちなみに2023年に行われた選挙では、世界5地域中、事実上の選挙が行われたのは東欧および中・南米地域のみで、投票を通してロシアとペルーがそれぞれ落選している。

では今回の選挙で理事国となった国も含め、47人権理事国中、実際どれだけの国が「人権の促進と保護において最高水準を維持」し、さらにはどれだけの国が真摯に世界の人権問題解決のために貢献していると言えるのだろうか。人権理事会の効果的な任務執行のため、理事国となった国の責任追及やより厳格な選挙基準の設定など、改革の必要性はこれまで多くのところで指摘されてきたが、そのような改革がスムーズに行えないのも政府間機関である国連組織の弱点でもある。
私たち市民社会が、それぞれの現場で、政府に対して人権遵守を求めていくことが強く求められる。

IMADR通信220号 2024年12月3日

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