スイス、ジュネーブで、国連人種差別撤廃委員会(以下CERD)の第114会期が2023年11月25日から12月13日まで、国連移住労働者権利委員会(以下CMW)の第37会期が11月27日から12月8日まで行われた。それぞれの会期が同時に進行する中、これら二つの条約機関は12月4日に共同でサイドイベントを開催し、外国人嫌悪(ゼノフォビア)の問題とそれに対する条約加盟国の義務についてパネルディスカッションを行った。外国人嫌悪についてはCERD、CMWともにこれまで人種差別および移住者の権利というそれぞれの観点からフォーカスをあて、条約加盟国審査や個人通報制度などの手続きの中で取り扱ってきたが、この問題により包括的に対処し、また、条約加盟国の義務をより明確化するため、共同による一般的意見/勧告(以下、共同一般的意見)の採択を目指している。今回のイベントはその第一歩として行われた。
パネルディスカッション
サイドイベントはCERD委員長により口火が切られ、パネルディスカッションでは国際労働機関(ILO)、国連女性機関(UN Women)、国際移住機関(IOM)、国連児童基金(UNICEF)などの国際機関やコロンビア国連代表部および移住者の権利のために活動する市民社会からの代表者がスピーカーとして議論を行った。その中ではまず、共同一般的意見によるガイダンスは、外国人嫌悪の被害を受けている移住者自身のニーズを反映し、そして非正規移住の課題にも対処する必要があるということが強調された。また、多様化する社会の中で、世界各地で移住者や難民に対する差別や暴力が増加していること、移住の過程や移住先において何百万もの人がさまざまな形態の人種差別、外国人嫌悪、関連する不寛容の被害にあっていること、メディアや政治家によって移住者が犯罪やテロ、その他社会問題の原因としてスケープゴートとされていることが挙げられ、より強固で権威のあるガイダンスの必要性も確認された。
加えて、表現の自由の保護とヘイトスピーチへの対処のバランス、誤情報や偽情報、人工知能やデジタル技術の影響、移住女性が直面するリスク、いじめや言語差別、社会的な排除への適切な対処を含めた移住児童の権利保護、非正規移住者のニーズ、気候変動や環境破壊の影響などが、共同一般的意見の作成プロセスにおいて考慮すべき重要事項としてスピーカーから提起されている。
共同一般的意見採択へ向けた今後の動き
上記サイドイベントの後、CERDとCMWは共同一般的意見の最初の草案作成プロセスに入った。現在はその作成のため、共同一般的意見のゴール、範囲、および含めるべき項目について、関係者からの書面情報提供を呼び掛けている。情報提供の締め切りは2024年3月31日で、市民社会も含め誰でも情報提供ができる。CERDおよびCMWのコンセプトノートおよび質問事項が国連ウェブサイトで公開されている。最初の草案の完成後、国連は、今年9月から10月にかけて世界各地域での協議を計画しており、現場からの意見をさらに反映させる予定だ。
CERDやCMWだけでなく、その他条約機関の加盟国審査でも頻繁に提起されているように、外国人嫌悪はさまざまな人権に関わる横断的な問題である。それはまた、多様な人権・人道および政治・経済・社会問題の結果であり、原因ともなっている。近年、さまざまな国で右派政権が誕生し、中には極右までもが政権運営を担う国が出てきているなかで、この課題の解決に向けた道は複雑になっていると言える。このような状況下で今回のCERDとCMWによる共同一般的意見採択に向けた動きの重要性は明白である。
この動きを具体的な変化に結びつけるためには、その作成プロセスだけでなく、作成後の活用における市民社会、各国政府やその他の関係者の積極的な参加と関与が必要だ。
IMADR通信217号 2024/2/7発行