2024.10.15

日本に絶対必要な包括的反差別法制

日本は、ずいぶん以前から、人種差別撤廃委員会、自由権規約委員会、女性差別撤廃委員会、UPR審査など国連人権機関による国別審査で、「差別禁止法」や「包括的差別禁止法」を制定するよう繰り返し勧告を受けてきた。国内においても、被差別当事者や人権団体による差別撤廃や被害救済のための法律を求める運動が長年粘り強く行われてきた。そうしたなか、最近になり、ようやく個別の差別問題に対処する法律(障害者差別解消法、ヘイトスピーチ解消法、部落差別解消推進法、アイヌ施策推進法、LGBT理解増進法)が制定されたが、これらはほぼ理念法であり、差別や人権侵害に対する実効的な対処や救済については定めていない。そして現実社会では、公権力によるものも含め、差別行為はあとをたたず、被害者は沈黙を強いられるか、ハードルの高い裁判にもちこまざるをえないなど、自力で解決を強いられる状況が続いている。ことほど左様に、日本は差別に対して寛大な国である。
一方、差別の理由やあらわれ方も、複雑で多様であることが裁判など法律による検証で確認されてきた。上述のように個別の法律だけでは対応できない複合的な差別の問題は、例えば障害のある女性が受ける性暴力において考えられるように、障害者そして女性に対する差別の理由が潜んでいる。それについては、後で示す差別の理由の一覧(実践ガイドより)からご理解いただけるだろう。さらには「みなし差別」や「関連差別」は、例えば、部落差別においてよく起きている事象である。こうした実態は、差別に対して包括的なアプローチが必要なことを実証している。実践ガイドは差別が時代とともに進化していることにも注意を喚起している。

IMADR、日本語訳発行に挑む
実践ガイドが発行されたことを受け、IMADRは日本語に翻訳することを決めた。実践ガイドに関するOHCHRのHPでは、世界の政府が各国の言語に訳して発行するよう呼びかけている。それに呼応して、ポルトガル語、韓国語などの翻訳が当該政府により進められてきた。日本では民間であるが、IMADRが名乗りをあげ、OHCHRやERTと協議のうえ、国連出版局の承認をえて翻訳にとりかかった。その目的は、包括的反差別法を支える人権および平等に関する思想と、これまでの国際社会の経験と知恵を、日本国内の関心ある団体や個人と共有できるよう広めることにある。さらに、差別に効果的に対処できる法律が未整備で、被害者が自力による救済しか追求できない日本の現状を少しでも変える力になることにもあった。
10月末、実践ガイド日本語版はようやく発行に漕ぎつけた。250ページに及ぶ大量の情報であるが、IMADRのウェブサイト上で公開し、必要なときに必要な箇所を利用してもらえるようにしている。

実践ガイドの構成
1.導入部(巻頭辞、エグゼクティブ・サマリー、イントロダクションなど)
2.本文
第1部:国はどのような義務のもと包括的反差別法の制定を求められているのか?
第2部:包括的反差別法はどのような内容にするべきか?
第3部:包括的反差別法のもと、マイノリティの権利はどのように守られるべきか?
第4部:差別的暴力とヘイトクライムはどのように対処されるべきか?
第5部:表現の自由と差別の境目はどこにあるのか、どのような表現が差別につながるのか?
第6部:平等や多様性を推進するためには何が求められているのか?

実践ガイドが認識している差別の事由
現在の国際法のもと確認されている差別の事由を、実践ガイドは以下のように紹介している。さらに重要な点として、時代に伴う変化を鑑み、実践ガイドは、包括的反差別法を作る際に事由の項目は限定せず、open-ended(終わりなし)にしておくよう強調している。

年齢、出生、市民的地位・家族的地位・介護者の地位、皮膚の色、カーストを含む世系、障害、経済的地位、民族性、ジェンダー、性自認、遺伝性のまたはその他の病気に対する体質、健康状態、先住民族の出身、言語、婚姻上の地位、母性または父性の地位、移民の地位、マイノリティの地位、国民的出身、国籍、居住地域、政治的またはその他の意見、妊娠、財産、人種、難民または庇護の地位、宗教または信念、性およびジェンダー、性徴、性的指向、社会的出身、社会的状況

世論が求める包括的反差別法
特に昨年は、国内においても移民・難民に対する優越的で恣意的な政府の管理姿勢とそれがもたらす悲劇について、多くの人びとが懸念をいだいた。ジェンダーギャップはさらに拡大し、あらゆる点において日本は地位を下げ続けている。選択的夫婦別姓には国会議員が団をなして大反対した。また国会議員が自身のブログでマイノリティを差別し続けても、一切お咎めなしの状況が常態化している。LGBT理解増進法に関する国会での議論には、差別を助長する発言が満載されていた。こうしたことを背景に、この数年、「包括的差別禁止法が必要だ」という声が国会での論戦を含め、さまざまなところで聞かれるようになった。
包括的反差別法制定のための実践ガイドは、差別と同様に平等の重要性についても注目し、それを確保するために何が求められるのかについて説いている。また、法律だけではない。それを実施するための制度や仕組みも必要であることが詳細に議論されている。その仕組みの代表的なものが、独立した国内人権機関である。差別や人権侵害の相談受付、調査、判定、加害者への対応、被害者への救済、人権教育・啓発など、日本において決定的に欠けている仕組み作りが強く求められる。

国連とのコラボによる実践ガイドの普及
OHCHRとERTはIMADRの取り組みを側面から支援してくれている。その一環として、去る9月29日にクロード・カーンさんとジム・フィッツェラルドさんを迎え、オンラインのワークショップを行った。その内容については次のページ以降で報告する。さらに、11月16日にはクロード・カーン氏を日本に迎え、実践ガイドの日本語版を広めるための院内集会を行った。道のりはけっして平坦ではないが、IMADRが設立当初から掲げてきたミッションである、立ち上がり+つながり+基準・仕組み作りを、包括的反差別法の制定を目ざすプロセスで具現化したい。

実践ガイドのダウンロード・閲覧は右のリンクから 【https://bit.ly/3SpmGf6

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