普遍的定期審査と日本政府

小松 泰介

IMADR事務局次長 ジュネーブ事務所

 

すべての国連加盟国がお互いに人権状況を審査するという制度である普遍的定期審査(UPR)は、2006年の国連人権理事会の創設に伴って誕生した。2008年の初回審査から3回目となる日本審査は2017年11月14日に行われた。人権の専門家で構成される人種差別撤廃委員会(CERD)といった条約機関と異なり、UPRではジュネーブに置かれている各国政府代表部が在東京の大使館および本省と事前に相談して審査での質問や勧告を準備している。そのため、市民社会による情報提供も当日ではなく審査の1ヵ月以上前に各国外交官に対して行うことが慣例となっている。この市民社会の情報提供およびロビーイングのサポートとして、UPR専門のNGOである「UPRインフォ」が本審査の1ヵ月前に事前セッションをジュネーブで開催している。事前セッションでは翌月に審査される国の市民社会から5名のパネリストが選ばれ、各国外交官に対して審査国の人権状況についてジュネーブで一度に情報提供ができるものである。10月12日に行われた日本の事前セッションではIMADRもパネリストに選ばれ、次の内容について筆者が発言した。

 

まず、人種差別に対する人権インフラとレイシストによるヘイトスピーチについて、「ヘイトスピーチ解消法」および「部落差別解消推進法」の制定は不十分ながらも一定の前進としつつも、包括的な差別禁止法がなく、ヘイトスピーチやヘイトクライムについて規定する人種差別撤廃条約4条も留保されたままであるなど、日本において人種差別に対抗する法的枠組みが不十分であることを指摘した。また、人権侵害の被害者が直接国連条約機関に申し立てすることができる個人通報制度を政府は受け入れておらず、この問題は20年以上「検討中」のままであると強調した。

 

また、在日コリアンの人びとは参政権をはじめとする意思決定プロセスから外されてきた上に、2013年に朝鮮学校が「高校授業料無償化」の対象から除外されて以降、子どもたちが自分たちの言葉で教育を受ける権利が侵害されていることを伝えた。さらに、この政府決定がヘイト集団による在日コリアンへの差別を助長したことも指摘した。部落については、インターネット上に部落地名総鑑が投稿される一方、部落出身者の個人情報が第三者によって本人の許可なく取得され、プライバシーの権利の侵害と差別が続いていることを話した。また、先住民族とマイノリティの女性は教育、雇用、ドメスティック・バイオレンスといった様々な問題で構造的差別を被っているが、国連女性差別撤廃委員会からの繰り返しの勧告にもかかわらず彼女たちの状況を把握するための公式統計や是正措置が取られていないことを指摘した。

最後に、2017年11月に「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(技能実習法)」が新たに施行されるが、外国人実習生の労働搾取や自由の制限といった人権侵害は蔓延しており、制度を廃止するか、もしくは技能実習生の人権を保護するためのメカニズムをより強化することを求めた。

セッションの終わりにあった各パネリストからの結びにおいて、日本は人権理事会の理事国であり、国内の人権状況を向上するために必要なのは資源ではなく政治的意思であると強調した。さらに、最近の法務省の外国人住民調査によって人種差別の実態を示す公式データが出されたことを指摘し、日本政府がこのデータを受け止めて人種差別に対する行動を取ることを求めた。

事前セッションと並行して、マイノリティや先住民族の問題に関心のある国の政府代表部と個別に面談をし、日本の人種差別問題についてパートナー団体である朝鮮人人権協会および沖縄国際人権法研究会の皆さんと一緒に情報提供をした。国外ではほとんど知られていない日本の人種差別問題を国際社会に伝えるという点でも、UPRは貴重な機会となった。

1ヵ月後の11月14日に行われた日本審査は、過去2回の審査よりさらに政府の取り組みが問われるものとなった。13ヵ国1が審査されたUPR28会期において、日本政府に対して勧告を出すために106ヵ国が発言した。これはパキスタンの111ヵ国とスイスの108ヵ国に次いで3番目に多い数であり、第1回審査の42ヵ国、第2回審査での79ヵ国から大きく増加している。各国政府は各会期でそれぞれの国の人権状況や地理的・政治的要素などを考慮して勧告する国としない国を決めている。つまり、今会期において理由は異なるにしても大多数の国が日本に対して勧告することが必要だと判断したということであり、日本の人権状況に対する関心の高さを表している。ちなみに、発言国数の最も少なかった国は順番にグアテマラの68ヵ国、ペルーの69ヵ国、ウクライナの70ヵ国である。

日本に対しては合計218の勧告が出された。これらの勧告のうち一番多かった分野が女性の人権(39)、次に人種差別問題(36)、そして死刑問題(35)、国内人権機関(30)と続いた2。移民に関する21の勧告と技能実習生に関する3つの勧告と合わせた場合、人種差別に関連する勧告は一番多くなる。これは日本の先住民族やマイノリティ、移民の人権問題の重大性を国際社会が認識していることを示すものであると共に、これまでCERDをはじめとする人権条約機関やその他の国連人権システムに対して市民社会が地道に提供をしてきた情報が蓄積された結果でもある。しかし、裏を返せば長年にわたって日本における人種差別問題が依然として深刻であるということでもある。

 

UPR審査における日本政府の回答は残念ながら建設的とは言い難いものであった。ここでは人種差別に関連するものについて簡単に紹介したい。先住民族アイヌの権利の保護と促進については、「アイヌ政策推進会議を通して行っている」という漠然とした回答だった。また、移住労働者権利条約の批准の勧告についても「平等原則や国内法との抵触の観点から慎重な検討が必要」という回答だった。難民認定や非正規滞在者の取り扱い、技能実習制度における人権保護に関しては、既存の法制度と方針を読み上げただけのものであった。包括的差別禁止法の制定を含む差別撤廃に関する勧告に対しては、「日本国憲法によってすべての国民は法の下の平等原則が保障されている。雇用、教育、医療、交通など国民生活に密接かつ公共性の高い分野に関しては関係法令で差別の禁止が規定されている。法務省の人権相談所が人権侵害事案の相談および対応している」という趣旨の回答であった。独立した国内人権機関の設置と個人通報制度の受託の勧告に対しては、またしても「検討中」という回答であった。ヘイトスピーチについては「啓発活動の強化および人権擁護委員による相談や調査および救済活動を実施している」というものであった。最後に、朝鮮学校の「高校無償化」制度からの除外について、「民族差別や教育を受ける権利の侵害にはあたらない」という国際人権基準の理解からはかけ離れた回答であった。

人種差別問題に対する一連の消極的な態度とは対照的に、日本政府は審査において女性の活躍促進のための政策について積極的に発言していた。しかし、その政府代表団を見てみると通訳を除いた33名のうち女性は9人しかいないという言行不一致なものであった。国内の人権状況の向上のために、日本政府は言葉ではなく行動で示すことが求められていることを皮肉にも象徴するようであった。

1. アルゼンチン、ウクライナ、ガーナ、ガボン、韓国、グアテマラ、ザンビア、スイス、チェコ、パキスタン、ベニン、ペルー、日本。

2. 複数の分野にまたがった勧告などもあるため概算の数字。

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